日本時間2024年9月12日、実業家のJared Isaacman(ジャレッド・アイザックマン)さんが率いる「Polaris Program(ポラリス・プログラム)」初の有人宇宙飛行ミッション「Polaris Dawn(ポラリス・ドーン)」で予定されていた船外活動が実施されました。民間のミッションにおける船外活動は今回が初めてです。
Polaris Dawnはアメリカの民間宇宙企業SpaceX(スペースX)の宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」を使用し、民間初の船外活動、人間の健康に対する宇宙飛行と宇宙放射線の影響についての研究、レーザーを用いた光通信のテストなどを行うことを目的としたミッションです。クルーはコマンダーを務めるIsaacmanさん、パイロットを務める元アメリカ空軍パイロットのScott Poteet(スコット・ポティート)さん、ミッションスペシャリストを務めるSarah Gillis(サラ・ギリス)さんとAnna Menon(アンナ・メノン)さんの4名です(Menonさんは医療担当も兼任)。
2024年9月10日(日本時間・以下同様)にCrew Dragonが打ち上げられた直後から、クルーは2日後の船外活動に備えてプリブリーズ(※)を開始。船外活動は事前の手順が2024年9月12日16時12分に開始され、SpaceXが開発した船外活動用宇宙服の空気漏れチェックや船内の空気を排出する手順が進められました。
そして同日19時50分頃、最初にIsaacmanさんが開放されたCrew Dragonのハッチを通過して高度約730kmの船外へ。10分近くの船外活動中に宇宙服の状態や可動性、船外活動を補助する手すりの確認を実施した後に船内へ戻りました。続いて同日20時5分頃、Gillisさんがハッチを通過して船外へ出ると、Isaacmanさんと同様のチェックを実施。IsaacmanさんとGillisさんが船外で活動した時間は合わせて約20分間でした。船外活動の様子はSpaceXがライブ配信を行いましたが、Gillisさんが左腕の肘関節を曲げ伸ばしする様子は非常にスムーズに見え、可動性の高さを伺わせていました。
Watch Dragon’s first spacewalk with the @PolarisProgram’s Polaris Dawn crew https://t.co/svdJRkGN7K
— SpaceX (@SpaceX) September 12, 2024
【▲ SpaceXがSNSのXで行ったPolaris Dawnの船外活動ライブ配信のアーカイブ】
なお、船外活動の実施に先立つ2024年9月11日には、Crew Dragonが高度約1400kmに到達しています。宇宙飛行士を乗せた宇宙船がこの高度に到達したのはアポロ計画以来およそ半世紀ぶりのことです。最高高度到達後にCrew Dragonは軌道を修正しており、船外活動は高度約190km×700kmの軌道で実施されました。また、Polaris Dawnで船外活動を行ったのはクルー4名のうち2名でしたが、船外活動中のCrew Dragon船内は真空状態になったため、4名全員が船外活動用宇宙服を着用していました。同時に4名の宇宙飛行士が真空状態にさらされたのは、今回が初めてとなります。
Polaris Programは今回の船外活動について、大量の宇宙服が必要となる月や火星における基地や都市の建設を念頭に、将来の長期ミッションにおける拡張可能な宇宙服の設計に向けた重要なステップだと述べています。
Crew Dragonを運用するSpaceXのElon Musk(イーロン・マスク)CEOは2024年9月8日に、同社が開発中の再使用型宇宙船「Starship(スターシップ)」による火星への最初の無人飛行を2年後の2026年に実施する予定であり、無人での着陸に成功すれば最初の有人飛行は4年後の2028年に行われるだろうとSNSのXにポストしています。もちろんこのスケジュール通りに進むとは限りませんが、ほんの数年後に火星で使用されるかもしれない宇宙服の設計に、Polaris Dawnで得られた知見が活かされることになりそうです。【最終更新:2024年9月13日11時台】
※…体内に溶け込んでいた窒素が微小な気泡となって毛細血管を詰まらせる減圧症を防ぐための手順。プリブリーズを行って体内の窒素を体外に排出しておくことで、気圧の低い環境にさらされた時に減圧症にかかるのを防ぐことができる。
Source
- Polaris Program - Polaris Dawn Crew Tests New Suit and Completes First Commercial Spacewalk
- @PolarisProgram (X)
文・編集/sorae編集部