アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年6月7日付で、欧州宇宙機関(ESA)と共同で進めている火星サンプルリターンミッションについて、火星で採取したサンプルを地球へ持ち帰る低コストかつ迅速な手法の提案を2024年4月に募集した結果、回答した民間企業のなかから7社を選定したと発表しました。【最終更新:2024年6月21日11時台】
今回選定された企業は以下のとおりです(丸括弧内はNASAプレスリリースから引用した企業名および所在地と提案タイトル)。
- ロッキード・マーティン(Lockheed Martin in Littleton, Colorado: “Lockheed Martin Rapid Mission Design Studies for Mars Sample Return”)
- スペースX(SpaceX in Hawthorne, California: “Enabling Mars Sample Return With Starship”)
- エアロジェット・ロケットダイン(Aerojet Rocketdyne in Huntsville, Alabama: “A High-Performance Liquid Mars Ascent Vehicle, Using Highly Reliable and Mature Propulsion Technologies, to Improve Program Affordability and Schedule”)
- ブルー・オリジン(Blue Origin in Kent, Washington: “Leveraging Artemis for Mars Sample Return”)
- クアンタム・スペース(Quantum Space, in Rockville, Maryland: “Quantum Anchor Leg Mars Sample Return Study”)
- ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman in Elkton, Maryland: “High TRL MAV Propulsion Trades and Concept Design for MSR Rapid Mission Design”)
- ウィッティングヒル・エアロスペース(Whittinghill Aerospace in Camarillo, California: “A Rapid Design Study for the MSR Single Stage Mars Ascent Vehicle”)
NASAによると、7社には90日間の研究を行うために最大150万ドルが与えられます。また、NASAやジェット推進研究所(JPL)、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)でも研究が行われています。
NASAとESAは火星の表面で採取したサンプルを地球に持ち帰る「火星サンプルリターン(Mars Sample Return)」計画を共同で計画・実施しています。これまで火星の岩石は隕石として地球に飛来したもの(火星隕石)を調べるか、あるいは火星探査機・火星探査車に搭載された装置を使って現地で採取・分析することしかできませんでした。米欧共同のサンプルリターン計画が成功すれば、火星で直接採取されたサンプルが初めて地球にもたらされることになります。
従来の計画では、火星サンプルリターンは「火星でのサンプル採取」「サンプルの回収と打ち上げ」「サンプルを地球へ輸送」という三段構えのミッションで構成されています。このうち第1段階となる「火星でのサンプル採取」は、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターに着陸したNASAの火星探査車(ローバー)「Perseverance(パーシビアランス)」によって、すでに進められています。
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一方、「サンプルの回収と打ち上げ」と「サンプルを地球へ輸送」の段階を担う探査機の製造などはまだ進められていません。従来の計画に従えば、Perseveranceが採取したサンプルの回収と打ち上げはNASAの着陸機「SRL」が担当し、SRLに搭載されている小型ロケット「MAV」を使って火星の周回軌道へ打ち上げられます。この時点で軌道上にはESAの周回機「ERO」が待機していて、火星表面から打ち上げられたMAVから放出されたサンプル入りの球形コンテナをキャッチして回収カプセルに収容し、地球に運ばれます(※)。
※…SRL: Sample Retrieval Lander(サンプル回収ランダー)、MAV: Mars Ascent Vehicle(火星上昇機)、ERO: Earth Return Orbiter(地球帰還オービター)の略。
ただ、3つの探査機・探査車や1つの小型ロケットなどを前提とした従来の計画は非常に複雑です。NASAの2024年4月15日付のプレスリリースによると、総予算は80億~110億ドルと試算されており、予算上の制約やバランスの取れたポートフォリオを維持する必要性を考慮すれば、採取されたサンプルが地球へ到着するのは2040年になると予想されています。
このことにはNASAのBill Nelson(ビル・ネルソン)長官自身、NASAがこれまでに実施してきたミッションのなかで最も複雑なもののひとつになると前置きした上で「結局のところ、110億ドルという予算は高すぎて、2040年という帰還日は遠すぎます」と述べています。そこでNASAは、コスト、リスク、ミッションの複雑さを軽減した上で、2030年代に火星から地球へとサンプルを持ち帰ることができる手法の提案を募集しました。その提案に対して回答した企業から選ばれたのが、前述の7社というわけです。
NASAは選定した7社やNASA、JPL、APLでの研究が完了した後、すべての内容を評価した上でサンプルリターンの方法を変更または強化する予定だということです。
Source
- NASA - NASA Exploring Alternative Mars Sample Return Methods
- NASA - NASA Sets Path to Return Mars Samples, Seeks Innovative Designs
文・編集/sorae編集部