ダークマター粒子の正体、銀河形成...宇宙の未解決問題を一石二鳥に解決する革新的な検出器
【▲ LEMに搭載されるTESをベースにしたエネルギー検出器(Credit: Joshua Fuhrman/ Northwestern University)】

「一石二鳥(two-for-one deal)」ということわざは宇宙に関する未解決問題においても望まれるようです。米国SLAC国立加速器研究所がダークマター(暗黒物質)の探索用に開発した粒子検出器が、2030年代に運用予定のX線プローブ(観測衛星)「Line Emission Mapper(LEM)」に搭載されることが決まりました。銀河周辺物質(CGM: Circumgalactic Medium)や銀河間物質(IGM: Intergalactic Medium)から放射されるX線を正確に計測することが目的だといいます。

【▲ LEMに搭載されるTESをベースにしたエネルギー検出器(Credit: Joshua Fuhrman/ Northwestern University)】
【▲ LEMに搭載されるTESをベースにしたエネルギー検出器(Credit: Joshua Fuhrman/ Northwestern University)】

■銀河形成にとって重要な役割を果たす熱いガス

LEMはスミソニアン天体物理観測所、米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センター、ロッキード・マーティン社が共同で開発中のX線プローブです。LEMのようなプローブクラスのX線観測衛星の開発は、米国国立科学アカデミーが10年毎に発表する天文学や天体物理学に関する評価報告書「Astro2020」においても重点化すべき項目だと評価されています。LEMが実現すれば、銀河から放射されるX線を従来よりも正確にマッピングできるといいます。

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現代の天体物理学でも未解決の問題は幾つかありますが、そのうちの1つが銀河の形成です。銀河の形成は、星やブラックホールなどが及ぼす影響(フィードバック)や、銀河に流入・流出するガスに依存することが明らかになっており、CGMやIGMといったガスの温度・密度・速度および構成要素を計測することが求められるといいます。

【▲ 銀河周辺物質および流れを示す模式図(Credit:Thomas Cecil, et al. )】
【▲ 銀河周辺物質および流れを示す模式図(Credit:Thomas Cecil, et al. )】

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LEMはガスや金属(※天文学ではヘリウムよりも重い元素の総称)から放射されるX線のスペクトルをもとに物質の化学組成などの情報を得ることが可能であり、その観測データは銀河や銀河団などの進化の理解、ひいては宇宙の形成史を「編さん」する上で助けになるのだそうです。

【▲ LEMの模式図(Credit: Ralph Kraft, et al. )】
【▲ LEMの模式図(Credit: Ralph Kraft, et al. )】

X線の正確な測定に利用されるのは超伝導転移端センサー(Transition Edge Sensor: TES、以下TES)です。超伝導とは臨界温度近くでの少しの温度変化で電気抵抗値が急激に変化する性質のことで、超伝導体の薄膜を温度センサー(マイクロカロリーメーター)として活用することが可能です。

CGMやIGMから放射されるX線は、宇宙線からのエネルギーによる「雑音」を受けるため、約15〜20%のデータが無駄になってしまうのだといいます。TESマイクロカロリーメーターは、こうした雑音とみなされるエネルギーを検出するために使用されます。LEMに搭載されるTESマイクロカロリーメーターはSLACのNoah Kurinsky氏が設計したもので、雑音によるデータの損失を受けることなくX線のスペクトルを計測できるのだといいます。

■ダークマター検出用に開発された装置

LEMに搭載予定のTESはもともと、SLACがダークマターの検出用に開発した装置でした。可視光で確認できないダークマターの正体は現在もなお不明で、(冷たい)ダークマター粒子の候補となるWIMPやアクシオンなど未発見の粒子を検出する試みが今も続けられています。こうしたダークマター粒子の候補を検出するために、わずかなエネルギーの変化を検知できるTESが必要だったといいます。

Kurinsky氏によると、宇宙線からのエネルギーを計測する上でTESが満たすべき要件のリストをLEMの研究グループから提供されたものの、自身が設計したセンサーはすでに要件以上の能力を発揮していたのだといいます。同氏は、開発したTESおよびLEMミッションの成功によって、別のミッションと将来連携する道が開かれる可能性について楽観視しており、TESを次世代のガンマ線実験で活用する方法を探っている最中だとしています。

 

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文/Misato Kadono 編集/sorae編集部