宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年3月13日付で、JAXAの火星衛星探査計画「MMX」の探査機に搭載されるローバー(探査車)「IDEFIX(イデフィックス)」が、開発を担当したフランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)からJAXAへと2024年3月7日に引き継がれたと発表しました。【最終更新:2024年3月28日12時台】
2026年度の打ち上げを目指して探査機の開発が進められているMMXは、火星の衛星「フォボス」から世界で初めて地表のサンプルを採取して地球への帰還を目指すJAXAのサンプルリターンミッションです。MMX探査機に搭載されるIDEFIXは、一足先にフォボスへ着陸して表面を覆うレゴリスの特性を調べておくことで、続いて着陸するMMX探査機がサンプル採取を行う時のリスクを低減させることを目的としています。
IDEFIXはCNESとDLRが共同で開発を行いました。DLRはローバーとMMX探査機本体の切り離し機構を、CNESは搭載されるコンピューターと通信システムを含むサービスモジュールを担当しています。MMX探査機打ち上げ後のIDEFIXの運用は、フランスにあるCNESの管制室とドイツにあるDLRの管制室で行われる予定です。なお、JAXAは小惑星探査機「はやぶさ2」でもCNESとDLRが共同開発した小型着陸機「MASCOT」を搭載したことがあり、MMX探査機へのIDEFIX搭載はMACSOTに続く協力体制となります。
IDEFIXの全長は約51センチメートル、重量は約25キログラムで、フォボスには地表高度40〜100メートルから自由落下して着陸します。海外メディアのNASASpaceFlight.comによると、IDEFIXには主要な機器として光学ナビゲーション用のステレオカメラ「NavCam」、ラマン分光計「RAX」、IDEFIXの車輪とフォボス表面の相互作用を研究するための光学センサー「WheelCams」、赤外線放射計「MiniRad」が搭載されているということです。
2023年7月に組み立てを完了したIDEFIXは、ロケット打ち上げ時の振動に耐えられるかを調べる「振動試験」と宇宙空間の高温や低音に耐えられるかを調べる「環境試験」を完了した後に、安全のためバッテリーを取り外した状態で輸送されました。JAXAによると、日本には2024年2月中旬に到着し、三菱電機株式会社鎌倉製作所へ搬入されて引き渡し前の最終試験が行われたということです。
JAXAの川勝康弘MMXプロジェクトマネージャーは「この引継ぎは、ハードウェアの引継ぎであり、責任の引継ぎでもあります。私たちJAXAとコントラクターであるMELCO(三菱電機株式会社)は、この責任を非常に重要と考えています。IDEFIX(の引渡し)は、それぞれが独立して並行して開発されてきた多くのミッション機器を含む、すべての探査機コンポーネントを統合していく次の開発フェーズのスタートであり、最終的に探査機全体のシステムが完成します」とコメントしています。
Source
- JAXA - MMX搭載ローバ「IDEFIX」の引渡し完了について
- DLR - The journey to the martian moon Phobos begins
- NASASpaceFlight.com - IDEFIX Phobos rover sent to Japan ahead of mission to Mars
文/出口隼詩 編集/sorae編集部