ロケットラボ、アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の軌道投入に成功
【▲ ニュージーランドにあるロケットラボの発射場から打ち上げられたエレクトロンロケット(Credit: Rocket Lab)】

ロケットラボは日本時間2024年2月18日深夜、日本の民間企業が開発した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」を搭載した「エレクトロン」ロケットの打ち上げミッション「On Closer Inspection」に成功しました。

【▲ ニュージーランドにあるロケットラボの発射場から打ち上げられたエレクトロンロケット(Credit: Rocket Lab)】
【▲ ニュージーランドにあるの発射場から打ち上げられたエレクトロンロケット(Credit: Rocket Lab)】

ADRAS-Jを搭載したエレクトロンは日本時間2024年2月18日23時52分(ニュージーランド夏時間2024年2月19日3時52分)、ニュージーランドのマヒア半島にあるの発射場から打ち上げられました。衛星は発射から1時間4分後にロケットから分離され、高度600km・軌道傾斜角98度の軌道へ投入されました。は軌道投入後のADRAS-Jから受信した信号により正常に通信できることを確認したと発表しています。

【▲ アストロスケールの管制室の様子(Credit: Astroscale)】
【▲ の管制室の様子(Credit: Astroscale)】

は安全で持続可能な宇宙環境を目指してスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を含む軌道上サービスの提供を行う日本の民間宇宙企業です。ADRAS-Jは宇宙航空研究開発機構()の「商業デブリ除去実証(CRD2)」フェーズI契約相手方として2022年3月に選定されたアストロスケールが開発した商業デブリ除去実証衛星です。

ADRAS-Jプロジェクトマネージャーを務めるアストロスケールの新栄次朗さんは「数年の歳月をかけて設計・開発に関わってきたチームの想いを乗せたADRAS-Jが無事打ち上がり、いよいよ軌道上での運用が始まりました。PRO技術を実証し、実際のデブリへの接近とその調査を行う初のミッションを成功させるべく、より一層気を引き締めて取り組んでまいります」とコメントしています。

【▲ 商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の実機(Credit: Astroscale)】
【▲ 商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の実機(Credit: Astroscale)】

アストロスケールによると、現在ADRAS-Jは搭載された機器の確認などを行う初期運用フェーズにあります。確認が終わり次第、「RPO(Rendezvous and Proximity Operations、ランデブー・近傍運用)」技術の実証に移行する予定です。RPOはデブリ除去事業で不可欠な技術とされており、ADRAS-Jのミッションは除去対象のデブリに対するランデブー(Rendezvous)、近接アプローチ(Procimity Approach)、近傍運用(Proximity Operation)、離脱(Departure)という手順を踏んで行われます。

やアストロスケールによると、今回のミッションのターゲットは温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」を打ち上げた「H-IIA」ロケット15号機の上段(2段目、全長約11m・直径約4m・重量約3トン)です。同ロケット上段は2009年1月の打ち上げ以来地球低軌道を周回し続けています。フェーズIの実証衛星であるADRAS-Jはこのロケット上段の運動や損傷・劣化の状況を把握するために接近・撮影を行う予定です。アストロスケールによれば、実際のデブリへ安全に接近して状況を明確に調査する試みは世界初とされています。

【▲ ターゲットの「H-IIA」ロケット15号機の上段に接近する商業デブリ除去衛星「ADRAS-J」の想像図(Credit: Astroscale)】
【▲ ターゲットの「H-IIA」ロケット15号機の上段に接近する商業デブリ除去衛星「ADRAS-J」の想像図(Credit: Astroscale)】

除去の対象となるデブリが自らの位置情報を発信していない非協力物体である場合は正確な位置情報が分からず、おおよその位置を地上局からの観測データをもとにして割り出す必要があります。しかし、ADRAS-Jが軌道上の非協力物体に近付くためには、事前に要求された非常に正確な軌道へADRAS-Jを投入しなければなりません。

によると、エレクトロンを使って軌道に投入される衛星の近地点、遠地点、軌道傾斜角などのデータは通常であれば打ち上げの何か月も前に決定されますが、今回のミッションでは打ち上げのタイミングや軌道投入をより正確なものにする必要があっため、アストロスケールから最終的な軌道に関する情報を受け取ったのは打ち上げの20日前だったということです。

【▲ 発射場で打ち上げを待つエレクトロン。フェアリングにはアストロスケールのロゴが貼られている(Credit: Rocket Lab)】
【▲ 発射場で打ち上げを待つエレクトロン。フェアリングにはアストロスケールのロゴが貼られている(Credit: Rocket Lab)】

今回軌道に投入されたADRAS-Jは、もともと2023年11月にエレクトロンで打ち上げられる予定でした。ところが2023年9月、は米国の民間企業カペラ・スペースのSAR衛星を軌道へ投入することに失敗しました。原因を究明するため、エレクトロンの打ち上げは一時中断されていましたが、約3か月後の2023年12月15日に日本の民間宇宙企業QPS研究所の小型SAR衛星を搭載して、打ち上げに成功しました。エレクトロンの打ち上げ再開に伴い、ADRAS-Jも打ち上げに向けた準備が進められていました。

関連記事:アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」は2月18日に打ち上げ予定(2024年2月13日)

 

Source

  • Astroscale - アストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」、打上げに成功
  • Rocket Lab - Rocket Lab Successfully Launches Mission Designed to Investigate Removing Space Junk from Orbit
  • SpaceNews - Electron launches Astroscale inspection satellite

文/出口隼詩 編集/sorae編集部