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アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年1月25日付で、火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」のミッション終了を発表しました。2021年4月から2024年1月までの間に当初の目標だった5回を大幅に上回る72回の飛行を実施したIngenuityは、計画されていた期間の30倍以上も続いた火星での長い旅を終えることになりました。【最終更新:2024年1月26日11時台】

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」。火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」のカメラ「Mastcam-Z」で2023年8月2日に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】
【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」。火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」のカメラ「Mastcam-Z」で2023年8月2日に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】

Ingenuityは日本時間2021年2月19日朝に着陸したNASAの火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」の下部に搭載される形で火星へと運ばれました。機体は高さ49cm、重量1.8kgと小型・軽量で、幅1.2mのカーボンファイバー製ローター(二重反転式)と太陽電池を搭載しています。

火星の環境は地球とは異なり、地表の重力は地球の約3分の1、地表の気圧は地球の約1パーセントしかありません。大気が薄い火星でも動力飛行できることを実証するのがIngenuityの使命であり、当初は30日間で最大5回の飛行が計画されていました。2021年4月19日に実施された初飛行でIngenuityは高度3mで30秒間のホバリングを含む39.1秒間の飛行に成功し、火星における航空機の制御された動力飛行が可能であることを初めて証明しました。

【▲ Perseveranceのカメラ「Mastcam-Z」で撮影されたIngenuity初飛行の様子】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)

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この1分に満たない初飛行はIngenuityの旅の始まりに過ぎませんでした。3日後の2021年4月22日に実施された2回目の飛行で初めて水平方向の移動に成功したIngenuityは、「ライト兄弟飛行場(Wright Brothers Field)」と名付けられた離着陸地点を拠点に4回の飛行を重ねた後、5回目の飛行(2021年5月7日)では129m離れた場所に設定された新たな離発着地点へ移動することに成功。ミッションは技術実証から運用実証へと進み、IngenuityはPerseveranceの探査活動に役立てるための画像撮影を実際に行うようになりました。

【▲ 2022年4月8日に行われた25回目の飛行中、Ingenuityのカメラで撮影された火星の地表の様子。ナビゲーション用モノクロカメラで撮影した複数の画像を動画にしたもので、この飛行での最高高度は10m、飛行時間は161.3秒だった】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

NASAのジェット推進研究所(JPL)によると、Ingenuityは2024年1月18日までに合計72回の飛行を達成しました。総飛行時間は約128.8分、総飛行距離は約17kmで、最高速度は毎秒10m(毎時36km)、最高高度は24mを記録。火星での活動期間はPerseveranceの着陸から1035ソルを数えます(※)。Ingenuityはその間に危険な地形でも自律的に着陸場所を選べるようにするためのソフトウェアアップデートを受けた他に、バッテリーの電力が不足して夜の間ヒーターをオンにし続けられないためにフライトコンピューターが定期的にフリーズしリセットしてしまうような厳しい冬を乗り越え、3回の緊急着陸も経験しました。

※…2024年1月18日時点。1ソル(Sol)は火星の1太陽日、約24時間40分。

【▲ 2023年12月22日に行われた70回目の飛行中、高度12mを飛行するIngenuityのカメラで撮影された火星の地表。最後となった72回目の飛行は、この画像の右側付近に写るエリアで行われた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ 2023年12月22日に行われた70回目の飛行中、高度12mを飛行するIngenuityのカメラで撮影された火星の地表。最後となった72回目の飛行は、この画像の右側付近に写るエリアで行われた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

JPLによると、Ingenuityは71回目の飛行(2024年1月6日)で約125秒間飛行する予定でしたが、実際には離陸から35秒後に緊急着陸しました。システムをチェックするための短時間の飛行として計画された72回目の飛行(2024年1月18日)では高度12mまで正常に垂直上昇したものの、降下中に地球との通信を中継しているPerseveranceとの通信が途絶えました。通信は翌日に再確立されたものの、Ingenuityのカメラで撮影された画像は少なくともローターブレードの1つが損傷したことを示していたことから、Ingenuityはミッションを終えることになりました。

【▲ 2024年1月18日に行われた72回目の飛行後、着陸したIngenuityのカメラで撮影された画像。着陸時に先端を損傷したとみられるローターブレードの影が火星の地表に落ちている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ 2024年1月18日に行われた72回目の飛行後、着陸したIngenuityのカメラで撮影された画像。着陸時に先端を損傷したとみられるローターブレードの影が火星の地表に落ちている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

Ingenuityのプロジェクトマネージャーを務めるJPLのTeddy Tzanetosさんは「IngenuityとPerseverance双方のチームの情熱と献身がなければ、火星ヘリコプターは72回どころか1回も飛行することはなかったでしょう。宇宙探査の未来に消えることのない足跡を残した史上初の火星ヘリコプターは、今後数十年に渡って火星や別の世界における航空機にインスピレーションを与え続けるでしょう」とコメントしています。今後は飛行運用を終えたIngenuityでシステムの最終テストを実施するとともに、残りの画像とデータが取得される予定だということです。

 

Source

  • NASA/JPL – After Three Years on Mars, NASA’s Ingenuity Helicopter Mission Ends
  • NASA Mars – Helicopter Status Updates

文/sorae編集部

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