こちらは火星の表面下1~5mの深さに埋蔵されているとみられる水の氷の分布を示した地図です(赤道から北緯60度まで)。画像の中央にはオリンポス山、右下にはマリネリス峡谷の一部が見えています。氷が埋まっている深さは水色の濃淡で表されていて、色が薄いほど浅く、濃いほど深いところにあることを意味します。
この地図はアメリカ航空宇宙局(NASA)が出資するプロジェクト「SWIM(Subsurface Water Ice Mapping)」によって作成されました。SWIMは火星の地下にある水の氷をマッピングするために2017年にスタートしたプロジェクトで、米国惑星科学研究所(PSI)が主導し、NASAのジェット推進研究所(JPL)が管理しています。
冒頭の画像はSWIMから4番目に公開された地図の一部で、この他にも表面下1m以内と5m以下の水の氷の分布をそれぞれ示した地図が公開されています。PSIやJPLによると、SWIMはこれまでNASAの複数の火星探査機で取得された低解像度のデータ(カメラ、レーダー、分光計など)を利用してきましたが、最近公開された4番目の地図では火星探査機「Mars Reconnaissance Orbiter(MRO、マーズ・リコネサンス・オービター)」に搭載されている2つのカメラ「HiRISE」と「CTX(Context Camera)」で取得された高解像度のデータが初めて使用されました。
火星の地下に埋蔵されているとみられる水の氷は、様々な観点から注目されています。水は人間の生存や生活に欠かせない物資の一つであり、電気分解して得られる水素と酸素はロケットエンジンの推進剤として利用できることから、将来の有人火星探査では現地で氷を採掘することも検討されています。また、掘り出された氷からは古代の火星の気候に関する情報が得られたり、過去の(場合によっては現在の)生命の痕跡が見つかったりする可能性もあります。
火星でも北極や南極には二酸化炭素の氷(ドライアイス)とともに豊富な水の氷があるものの、気温の低い地域で活動するには温度の維持に多くのエネルギーを割かねばなりません。そこで、なるべく赤道に近い中緯度地域に埋蔵されている水の氷の分布を把握して、今後の無人探査や有人探査の候補地を探そうというわけです。SWIMによる最新の地図では、氷が存在する場所と存在しない場所の境界をさらに制約するためにHiRISEのデータが使用されました。
また、最新の地図では隕石の衝突によって氷が露出したクレーターや、その周囲に広がる特徴的な多角形模様の“ポリゴン(polygon)”と呼ばれる地形が確認された場所も示されています。この地形は地球のツンドラなどでみられるポリゴン(多角形土)と同様に、地下の氷が季節の変化に応じて膨張・収縮することで地表に多角形の亀裂が形成された場所だと考えられています。氷が露出しているクレーターも含めれば、ポリゴンは地下に埋蔵されている氷を示す一つの兆候と言えます。
SWIMの共同責任者を務めるPSIのNathaniel Putzigさんは、火星の中緯度地域に埋蔵されている水の氷が地域によって不均一に分布している理由はまだわかっておらず、SWIMの最新の地図はその理由を説明する新たな仮説につながるかもしれないと述べるとともに、古代の火星における気候の進化や氷の堆積の地域差に関するモデルを微修正する上でも役立つかもしれないとコメントしています。
Source
- PSI - New Mapping Tools Will Find Subsurface Water Ice on Mars
- NASA/JPL - NASA Is Locating Ice on Mars With This New Map
文/sorae編集部