12年間に渡るミッションで合計10個の小惑星を探査するアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」が、いよいよ最初の探査対象となる小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」に近付いています。Lucyは日本時間2023年11月2日未明にDinkineshへ最接近し、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストを行う予定です。【2023年10月20日10時】
日本時間2021年10月16日に探査機が打ち上げられたLucyは、「木星のトロヤ群」に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションです。複数の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。
木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。
今回Lucyが初めて観測を行うDinkineshは幅約700mのS型小惑星です。打ち上げ時点での探査対象リストには含まれていませんでしたが、打ち上げ後に小惑星帯で正確な軌道が判明している50万個の小惑星を詳しく調べたところ、Dinkineshの近くを通過することが判明したために探査対象として追加されました。追加が発表された2023年1月の時点ではまだ仮符号の「1999 VD57」と呼ばれていましたが、運用チームが化石人骨であるルーシーのエチオピア名にちなんた名前を提案し、国際天文学連合(IAU)に承認されたことで正式にDinkineshと命名されています。
幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、Lucyは小惑星を周回する軌道には入らずに通過しながら観測するフライバイ探査を行います。Dinkineshの探査は前述の通り観測装置のテストと位置付けられていて、自律的に小惑星の位置を特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自動追尾システムがテストされます。
「私たちはLucyが何をすべきか知っていますが、Lucyは地球からの電波が届くまでに約30分もかかるほど遠くを飛行しているので、小惑星との遭遇を対話的に指示することはできません。その代わりに、私たちはあらゆる科学観測を事前にプログラムしておくのです」(Mark Effertzさん、ロッキード・マーティン・スペースのLucy主任技術者)
【▲ NASAが公開しているLucyによるDinkineshのフライバイ探査を解説した動画(英語)】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
NASAによると、Lucyは日本時間2023年11月2日1時54分にDinkineshから430km以内の最接近点を通過します。観測装置を搭載した架台は最接近の2時間前に所定の位置へ移動し、望遠カメラ「L’LORRI」と熱放射分光器「L'TES」による観測を開始。最接近の1時間前にはLucyの追跡システムによる小惑星の追跡が始まり、最接近の8分前からは可視光カラーカメラ「MVIC」と赤外線撮像分光器「LEISA」で構成される「L'Ralph」による観測も行われます。最接近後も1時間に渡ってDinkineshの撮影が続けられ、その後も4日間はL’LORRIによるDinkineshの撮影が定期的に行われるということです。
Dinkineshのフライバイ探査を終えたLucyは2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正し、2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星「 Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)」のフライバイ探査を行います。その後は2027年の「Eurybates(エウリュバテス)」とその衛星「Queta(ケータ)」をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。
Source
- NASA - NASA’s Lucy Spacecraft Preparing for its First Asteroid Flyby
- NASA - NASA’s Lucy Spacecraft Continues Approach to Asteroid Dinkinesh
- NASA - NASA’s Lucy Asteroid Target Gets a Name
文/sorae編集部