宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年9月7日に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」と小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」について、打ち上げ後の初期段階であるクリティカル運用期間(※機体の状態を確認し、最低限の運用ができる状態にするための期間。後述)が終了したことを9月14日までに発表しました。【2023年9月15日11時】
XRISMは2016年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」(運用終了)の後継機としてアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)などとも協力して開発された科学衛星で、星や銀河だけでなく銀河の集団が形作る大規模構造の成り立ちに迫ることが期待されています。
SLIMは月面へのピンポイント着陸技術を検証するための探査機です。斜面への着陸に対応するために着陸直前に機体を斜めに傾けて横向きに接地するという特徴的な着陸方法が採用されており、科学的に興味深い「着陸したい場所」への高精度着陸の実現に貢献することが期待されています。
XRISMとSLIMを搭載した「H-IIA」ロケット47号機は日本時間2023年9月7日8時42分に鹿児島県の種子島宇宙センターから発射され、打ち上げは成功。JAXAは同日中に太陽電池パドルの展開(XRISMのみ)や太陽捕捉制御が完了したことを発表していました。
関連:JAXAの天文衛星XRISMと月探査機SLIMが打ち上げ後の太陽捕捉制御を完了(2023年9月8日)
XRISMについては太陽電池による電力発生、地上との通信、電力発生や通信に欠かせない姿勢制御が正常であること、観測装置の一つである軟X線分光装置「Resolve」の冷却システムが安定動作していることが確認されたため、JAXAは9月11日にXRISMのクリティカル運用期間を終了すると発表しました。今後はXRISMの衛星本体や搭載機器の機能確認などを実施する初期機能確認運用期間(約3か月間)に移行するということです。
ResolveはJAXAとアメリカ航空宇宙局(NASA)が共同開発した観測装置で、X線が検出器に当たった時の温度変化を測定することでX線のエネルギーを割り出すX線マイクロカロリメータです。X線を放つ天体の温度や組成といった情報を得るためにX線のエネルギーを非常に細かく(高いエネルギー分解能で)測定することができますが、わずかな温度変化を測定するためには検出器の温度を約マイナス270℃まで下げる必要があるといい、液体ヘリウムを利用した冷却システムが搭載されています。
また、SLIMについてもXRISMと同様に太陽電池による電力発生、地上との通信、電力発生や通信に欠かせない姿勢制御が健全に動作することが確認できたと同時に、軌道制御に必要な推進システムなどの機能も健全に動作することが確認できたため、JAXAは9月14日にSLIMのクリティカル運用期間を終了すると発表しました。今後はSLIMに搭載されている機器の機能を確認しつつ月へ向かう軌道へ投入するための準備を行う地球周回運用期間(約20日間)に移行するということです。
現在SLIMは月へ向かう軌道に入る前段階となる楕円軌道を周回しています。自身の推進システムを使って月へ向かうSLIMは打ち上げから3~4か月後に月周回軌道へ到着し、月を約1か月間周回した後に日本初の月面着陸を実施する予定です。
Source
- Image Credit: JAXA, MHI
- JAXA - X線分光撮像衛星(XRISM)のクリティカル運用期間の終了について
- JAXA - 小型月着陸実証機(SLIM)のクリティカル運用期間の終了について
- NASA - XRISM Spacecraft Will Open New Window on the X-ray Cosmos
文/sorae編集部