私たちは真夏など日射しの強い日に、日傘をさして日光を遮ろうとします。ハワイ大学天文学研究所の天文学者István Szapudi氏は、日傘をさして歩くハワイの人々の様子を見て、地球も日傘をさすことで温暖化がもたらす気候変動を緩和できるのではないかと思いつきました。つまり、宇宙空間に「日傘」を設置して、地球に入射する太陽光の量を減らそうというのです。

【▲ 小惑星につながれた「シールド」の想像図(Credit:Brooks Bays/UH Institute for Astronomy)】
【▲ 小惑星につながれた「シールド」の想像図(Credit:Brooks Bays/UH Institute for Astronomy)】

日射による暑さから身を守る最も単純な方法が日傘をさすことであるように、地球の気温を下げる最も単純な方法は、地球と太陽の間に構造物を配置して、入射する太陽光の量を少しでも減らすことです。このアイデアは「ソーラーシールド」と呼ばれ、過去にも提案されたことがあります。

しかし、単純な方法イコール簡単な方法とは限りません。重力の釣り合いを考慮しつつ太陽の放射圧に飛ばされないシールドを作ろうとすると、構造物は相当な重量になってしまいます。シールドの材料は地球からロケットで打ち上げて運ばなければなりませんから、たとえ最も軽い素材で作ったとしても、とてつもないコストがかかってしまうといいます。

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今回Szapudi氏が提案した新たなアイデアは、2つの点で独創的と言えるものです。1つ目は、巨大で重いシールドを作る代わりに「カウンターウェイト」(釣り合いを取るための重り)をシールドにつなぎとめる方法を採用したことです。この方法を用いることで、シールド全体の重量は従来の想定と比べて100分の1以下に抑えることができます。

2つ目は、カウンターウェイトに小惑星を使用することです。小惑星を捕獲してシールドと接続することで、その分だけ地球から材料を打ち上げる必要がなくなります。また、小惑星の代わりに月のレゴリス(月面を覆う砂や塵)を使うことも考えられています。

【▲ 太陽に向けて設置された「シールド」の想像図(Credit:István Szapudi/UH Institute for Astronomy)】
【▲ 太陽に向けて設置された「シールド」の想像図(Credit:István Szapudi/UH Institute for Astronomy)】

Szapudi氏によると、シールドとカウンターウェイトからなる「繫留式シールド」の総重量は約350万トンに達します。その99%はカウンターウェイトとして使用される小惑星(または月の塵)の重量です。シールド本体の重量は残りの1%に相当する約3万5000トンで、地球から打ち上げる必要があるのはこの部分だけということになります。より軽い新素材を使えば、この重量をさらに減らすこともできますし、その他の設計と比べても迅速かつ低コストで済むということです。

とはいえ、現在の最大クラスのロケットを使っても、地球低軌道へ打ち上げることができるのは1回あたり50トン程度に過ぎません。従来の設計よりも軽いとはいえ、今日の打ち上げ技術からすればソーラーシールドの建設は挑戦的なプロジェクトであり、このアイデアが実現するにはまだ時間を要することでしょう。

しかし、以前のアイデアがほとんど実現不可能だったのに対して、Szapudi氏の新たなアイデアはシールドの設計を現在の技術でも実現可能な領域に持ち込んだといえます。ただし、その実現にはシールドとカウンターウェイトをつなぐ軽量かつ強靭なグラフェン(※)を用いたテザー(つなぎ綱)の開発が極めて重要になるでしょう。

※…炭素原子が1原子の厚さで結合した、蜂の巣のような六角形格子構造のシート状物質。

 

Source

  • Image Credit:Brooks Bays/UH Institute for Astronomy、István Szapudi/UH Institute for Astronomy
  • University of Hawaii Manoa - Sun ‘umbrella’ tethered to asteroid might help mitigate climate change
  • István Szapudi - Solar radiation management with a tethered sun shield (PNAS)

文/吉田哲郎

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