3機の宇宙機で構成される「重力波望遠鏡」は、地上では検出できない重力波を宇宙空間で捉える観測手段です。欧州宇宙機関(ESA)のWaldemar Martens氏らの研究グループは、次世代宇宙重力波望遠鏡「LISAmax」のアイディアに関する論文を発表しました。

【▲ 宇宙重力波望遠鏡のイメージ図(Credit: ESA)】
【▲ 宇宙重力波望遠鏡のイメージ図(Credit: ESA)】

約100年前に予言された重力波

重力波とは、質量の大きな天体が加速度運動することで生じた時空の歪みが伝わっていく現象のことです。1915年に一般相対性理論を提唱したアルベルト・アインシュタインによって、翌1916年に重力波の存在が予言されました。それから約100年後の2015年に、LIGO科学コラボレーションの重力波望遠鏡「LIGO」がブラックホール連星の合体が原因の重力波イベント「GW150914」を検出しています。

関連: 最新の「重力波イベント」カタログ公開、初検出から6年で90個に到達

【▲ LIGOハンフォード観測所(ワシントン州)の空撮写真。全長4kmのアームが2本、直角に配置されている様子がわかる(Credit: LIGO Scientific Collaboration)】
【▲ LIGOハンフォード観測所(ワシントン州)の空撮写真。全長4kmのアームが2本、直角に配置されている様子がわかる(Credit: LIGO Scientific Collaboration)】

重力波の検出で用いられているのは「レーザー干渉計」です。この装置ではレーザーから出た光をスプリッターで分離し、2つのアームを通過した光を重ね合わせた時の干渉を利用しています。通常の状態では、重ね合わされた2つのレーザー光は干渉によって互いに打ち消し合います。しかし、重力波がレーザー干渉計に届いた場合には、2つのアームを通過する光の航路が時空の歪みによって変化するため、結果としてレーザー光の振幅を強めるような干渉縞が発生します。これにより、重力波を検出したと判断できるのです。

-PR-

関連: 重力波望遠鏡「KAGRA」施設内の計測器がトンガ火山噴火の影響を捉えていた

超大質量ブラックホールに伴う重力波の検出

重力波として検出される時空の歪みは、地球〜太陽間の距離でも水素原子1個分ほどでしかないため、重力波の検出にはレーザー干渉計の規模が大きく関与します。基線長(アームの長さ)が大きくなるほど検出できる重力波の周波数は低くなるものの、感度は高くなります。

現在稼働中のLIGOや、欧州重力波観測所の「Virgo」といった地上の重力波望遠鏡は数十Hzから数kHzの周波数帯で重力波を検出できる感度を有し、太陽の数十倍の質量をもつブラックホールの合体に伴う重力波を検出する能力をもちます。しかし、銀河の中心に存在する超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が合体した場合に発生する重力波を検出する能力はないのだといいます。

【▲ 重力波の周波数と対応天体、検出可能な観測装置との関係(Credit: ESA)】

超大質量ブラックホールの合体に伴う重力波を検出するために、ESAが打ち上げを計画しているのが「LISA(Laser Interferometer Space Antenna: レーザー干渉計宇宙アンテナ)」です。LISAはESAによる10年単位の大型宇宙開発計画「Cosmic Vision」(2015〜2025)の大規模プロジェクト(Lクラス)の1つであり、2035年に打ち上げられる予定です。

LISAでは3つの宇宙機が連携し、衛星間でレーザー光を往復させることで干渉計として機能させます。約250万kmの基線長を実現できるため、1mHz(ミリヘルツ)以下の周波数帯で重力波を検出できる感度をもたせられる模様です。これにより、超大質量ブラックホールの合体に伴う重力波を検出することが期待されています。

しかし、Martens氏らの研究グループは、そのような重力波を本当にLISAで検出できるのかどうかは不明だと考察しています。同研究グループは、LISAでは超大質量ブラックホールが合体する直前の状況しか観測できないと指摘しています。そこでESAは、Cosmic Visionに続く大型宇宙開発計画「Voyage2050」(2035〜2050)で、異なる周波数帯でより高い感度をもつ宇宙重力波望遠鏡「LISAmax」を実現できないかどうか検討しています。

研究グループによると、地球と太陽からの引力と人工衛星の遠心力が釣り合う5つのラグランジュ点のうち「L3」「L4」「L5」にそれぞれ1機ずつ宇宙機を配置することで、基線長が約2億5900万kmの重力波望遠鏡が実現可能になるようです。これにより、LISAmaxではLISAよりもさらに低いmHz〜μHz(マイクロヘルツ)の周波数帯で重力波が検出可能になり、感度はLISAの100倍ほどになるといいます。研究グループによると、LISAmaxは超大質量ブラックホールが合体する数千年ほど前にお互いが公転しあう「インスパイラル期」の状況を観測できるようです。

【▲ 2つのブラックホールが合体し重力波を放つ様子を示すシミュレーション】
(Credit: NASA)

LISAmaxの実現は検出される重力波イベントの範囲を拡げるだけでなく、重力波を放つ対応天体を遡ってより多くのイベントを追跡することを可能にします。その結果、宇宙を支配する物理法則の探求や、惑星・衛星の研究に役立つことが期待されるとのことです。

 

Source

  • Image Credit: ESA
  • Universe Today – LISA Will Be a Remarkable Gravitational-Wave Observatory. But There’s a Way to Make it 100 Times More Powerful
  • ESA – LISA in a Nutshell
  • ESA – Next step towards a gravitational-wave observatory in space
  • NASA – What is an Interferometer?
  • arXiv:2304.08287 – LISAmax: Improving the Gravitational-Wave Sensitivity by Two Orders of Magnitude

文/Misato Kadono

-ads-

-ads-