日本時間2023年4月26日未明、株式会社ispaceは同社の月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(無人月着陸船)による民間初の月面着陸に挑みましたが、着陸成功には至りませんでした。ispaceのランダーは「氷の海」南東のアトラス・クレーター(Atlas、直径約88km)に着陸する予定でしたが、最終的に推進剤が尽きてハードランディング(※)したとみられています。
関連:月着陸船は推進剤が尽きて月面に落下か 民間月探査「HAKUTO-R」続報(2023年4月26日)
それから1か月近くが経った5月23日、アメリカ航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載されている光学観測装置「LROC」で撮影されたアトラス・クレーター内部の画像が、NASAやLROCの運用チームから公開されました。【2023年5月24日12時】
こちらが公開された画像の1つです。撮影当時の太陽光は右下の方向から入射していたため、影は月面の凹凸に応じて左上の方向に伸びています。画像右下のスケールバーは100mの長さを示しています。
LROCの運用チームによると、アトラス・クレーターの撮影はHAKUTO-Rミッション1ランダーの着陸運用が行われた翌日に実施されました。元の画像(記事の後半に掲載)はLROCの狭角カメラ(NAC)で取得した10枚の画像をつなぎ合わせて作成されており、クレーター内部の40×45kmの範囲が写っています。この画像は元の画像からランダーの着陸予定地点付近を拡大したものとなります。
このままでは広漠とした月面の様子が写っているようにしか見えませんが、中央の白い枠で囲まれた部分をさらに拡大した上で、ランダーの着陸運用開始前に撮影されたデータと比較したアニメーション画像も公開されています。
こちらがその比較画像です。右下のスケールバーは50mの長さを示しています。LROCの運用チームによれば月の北緯47.581度・東経44.094度の地点にわずかな変化があり、何らかの目立つ物体が少なくとも4つ写っています。左上に影が伸びている周辺の岩とは対照的に右下が暗くなっているように見える部分もあることから、小さなクレーターが写っている可能性もあるようです。
月を周回しているLROは太陽光の入射角や探査機の月面に対する角度などが異なる様々な条件の下で繰り返し観測を行っていることから、HAKUTO-Rミッション1ランダーの着陸予定地点は今後数か月かけてさらに分析が進められる予定だとNASAは述べています。また、ispaceによると、HAKUTO-Rミッション1で得られたフライトデータの解析結果は5月26日に発表される予定だということです。
※…ハードランディング:叩きつけられるような着陸、硬着陸。機体を十分に減速させた上で天体表面に接地する着陸はソフトランディング(速度を抑えたゆっくりとした着陸、軟着陸)と呼ばれており、ispaceはHAKUTO-Rミッション1ランダーで月面へのソフトランディングを目指していた。
Source
- Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Arizona State University
- NASA - NASA’s LRO Views Impact Site of HAKUTO-R Mission 1 Moon Lander
- アリゾナ州立大学 - Impact Site of the HAKUTO-R Mission 1 Lunar Lander
- ispace_HAKUTO-R (Twitter)
文/sorae編集部