こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」によって撮影された画像です。キュリオシティのマストに搭載されている「Mastcam」を使って2022年12月16日(ミッション3684ソル目※)に撮影されました。
※…1ソル(Sol)=火星での1太陽日、約24時間40分。
2012年8月に着陸して以来キュリオシティが探査活動を行っているゲール・クレーターは、数十億年前に湖が存在していたと考えられています。キュリオシティを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)によると、地表に刻まれた立体的な縞模様は、古代の湖で形成された漣痕(れんこん、リップルマーク)とみられています。水深の浅い場所に立った波が湖底の堆積物を巻き上げることで、このような縞模様が形作られたというわけです。別の言い方をすれば、この縞模様はかつてゲール・クレーターに液体の水があったことを示す証拠ということになります。
湖面の波が形作った縞模様の発見は、キュリオシティのチームを驚かせました。一帯には湖が干上がっていった時に残されたとみられる硫酸塩が存在しており、撮影場所周辺の岩層は火星の気候が乾燥していく過程で形成されたと考えられていたからです。ミッションのプロジェクトサイエンティストを務めるJPLのAshwin Vasavadaさんは「これはミッション全体でも最良の水と波の証拠です」「湖の堆積物を何千フィートも通り抜けてきましたが、このような証拠は見たことがありません」と語っています。
キュリオシティは2014年からゲール・クレーターの中央にそびえるアイオリス山(シャープ山、高さ約5000m)を少しずつ登りながら探査活動を行っています。火星の表面に水が存在していた時代を通して、水によってゲール・クレーターの内部に運ばれた堆積物はクレーターの底から上へと層状に積み重なっていき、後の時代に侵食作用を受けたことで断面が露出するようになったと考えられています。アイオリス山を登りながら堆積岩を調べることで、古い時代からより新しい時代へと時間を辿り、時が経つにつれて変化していった古代の火星の環境についての情報を得ようというわけです。
【▲ 形成から現在に至るゲール・クレーターの歴史を解説した動画「A Guide to Gale Crater」(英語)】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
冒頭の画像は「マーカーバンド(Marker Band)」と呼ばれているエリアで撮影されたものの1つで、同じ日に撮影した画像をつなぎ合わせて作成されたパノラマ画像とあわせて公開されました。マーカーバンドは宇宙から見ると周辺よりも暗い色合いをしていて、表面には薄い岩の層が広がっています。この層は非常に硬い岩でできているようで、JPLによればキュリオシティのドリルは岩のサンプルを採取することができなかったといいます。
2022年8月で火星着陸から10年を迎えたキュリオシティのミッションは2023年2月現在も継続しており、地表のサンプル採取や大気の観測などが精力的に行われています。マーカーバンドのパノラマやかつての湖底に刻まれた縞模様の画像は、JPLから2023年2月8日付で公開されています。
Source
- Image Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS
- NASA/JPL - NASA's Curiosity Finds Surprise Clues to Mars' Watery Past
文/sorae編集部