「H3」ロケットは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業株式会社が共同開発した日本の新型ロケットです。現在運用されている「H-IIA」ロケットの後継機として、H-IIAロケットの運用で見えてきた課題を解決するとともに、「柔軟性」「高信頼性」「低価格」の3つの要素をもち、利用者が「使いやすい」ロケットを目標に据えて開発されました。サイズは全長約63m、直径約5.2mで、全長はサッカーコートの横幅(64m)とほぼ同じです。

大型ロケット組立棟を出発し第2射点に到着した「H3ロケット試験機1号機」
【▲ 大型ロケット組立棟を出発し第2射点に到着した「H3ロケット試験機1号機」(Credit: JAXA)】

機体名称の「H3」は以下の理由から選定されました。

  • 日本の大型液体酸素/液体水素ロケットの系譜として使われてきた「H」を継承
  • コンセプトを根本から見直したロケットであるためH-IIAから引き継いだ「H-IIC」としない
  • ローマ数字の「III」ではなく、アラビア数字の「3」としたのは「II」と混同しない明確さがあるため

H3ロケット諸元

  • 全長:57m(ショートフェアリング)、63m(ロングフェアリング)
  • 直径:5.2m
  • 全備重量:270t(H3-30S)〜 572t(H3-24L)
  • 打ち上げ能力:高度500kmの太陽同期軌道に4t以上、静止トランスファ軌道に6.5t以上

H3ロケットの構成

H3ロケットは主に「第1段機体」「第2段機体」「フェアリング」「固体ロケットブースター」で構成されています。

第1段機体にはH3ロケットのメインエンジンとして新たに開発された「LE-9」が2基もしくは3基搭載されます。LE-9は燃料に液体水素、酸化剤には液体酸素を使用します。推力は現在使用されているH-IIAロケットの第1段メインエンジン「LE-7A」と比べて約1.4倍になっており、打ち上げ能力が向上しています。

-PR-

また、LE-9は「エキスパンダー・ブリード・サイクル」と呼ばれる日本独自のエンジン技術を第1段エンジンとして初めて採用しました。エキスパンダー・ブリード・サイクルを採用したエンジンはH-IIAロケットで使用された「二段燃焼サイクル」よりも構造が単純になるため、LE-9ではエンジン全体のパーツ数を減らすことができたということです。

【▲ H3ロケット第1段エンジン「LE-9」Credit: MHI)】
【▲ H3ロケット第1段エンジン「LE-9」Credit: MHI)】

第2段機体には「LE-5B-3」エンジンが1基搭載されます。このエンジンも「LE-9」エンジンと同じくエキスパンダー・ブリード・サイクルを使用しており、H3ロケット用に新たに開発されました。

フェアリングとは、ロケットに搭載した衛星を熱や汚れから守るためのカバーです。H3ロケットのフェアリングはロングタイプとショートタイプが用意されており、長さはショートが10.4m、ロングが16.4mとなります。2種類のフェアリングを用意することで、さまざまな大きさの衛星に対応することが可能です。

固体ロケットブースターは別名「SRB-3」と呼ばれます。H3ロケットのSRB-3は固体ロケット「イプシロンS」ロケットの第1段にも使用されます。SRB-3では大きな改良点としてブースターの本体であるモーターケースが国産化されており、コストダウンの実現と安定した製造が可能になるということです。

【▲ H3ロケットのコア機体に取り付けられる固体ロケットブースター「SRB-3」(Credit: JAXA)】
【▲ H3ロケットのコア機体に取り付けられる固体ロケットブースター「SRB-3」(Credit: JAXA)】

H3ロケットには4種類の機体形態があり、「H3-abc」と表記されます。abcの部分には以下の決まりに応じて、機体形態を示す数字もしくはアルファベットが入ります。

  • a:第一段メインエンジン(LE-9)の数→2基もしくは3基
  • b:固体ロケットブースター(SRB-3)の数→0本、2本、4本
  • c:フェアリングのサイズ→ショート(S)あるいはロング(L)

H3ロケットの最小形態は「H3-30S」で、メインエンジンは3基ですが固体ロケットブースターを装着せず、情報収集衛星や地球観測衛星などの太陽同期軌道を周回する衛星の打ち上げに適しています。いっぽう、最大形態の「H3-24L」はロングサイズのフェアリングを使用し、メインエンジンは2基で固体ロケットブースターも4本装着します。

【▲ H3ロケットの4形態。左から「H3-30S」「H3-22S」「H3-22L」「H3-24L」(Credit: JAXA)】
【▲ H3ロケットの4形態。左から「H3-30S」「H3-22S」「H3-22L」「H3-24L」(Credit: JAXA)】

H3ロケットの特徴

H3ロケットは機体の設計を共通化して、エンジンや固体ロケットブースターの数、フェアリングのサイズといった形態を打ち上げる衛星ごとに変化させることで、さまざまな人工衛星を打ち上げる能力を持ちます。また、H3ロケットの製造は「特注品」だったH-IIAロケットから自動車や航空機などと同じライン生産に近い形となっており、受注から打ち上げまでの期間を従来の半分となる約1年半に、打ち上げ間隔も1か月に短縮させたことで、打ち上げ機会が増加するということです。さらに、H3ロケットの打ち上げ費用はH-IIAロケットの最小構成での打ち上げ価格と比べて約半額(固体ロケットブースターを装着しない形態)を目指すということです。

H3ロケットの役割

H3ロケットは「自立性の維持」と「国際競争力の確保」という役割を担います。

1つ目の「自律性の維持」とは、「安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自律性を確保する上で不可欠な輸送システム」(H3 PRESS KIT p5から引用)である基幹ロケットを日本が自ら運用することで、日本の人工衛星を日本のロケットで自由に打ち上げる能力を持つことを指します。これまではH-IIAロケットが基幹ロケットとしての役割を担ってきましたが、今後はH3ロケットが引き継ぐことになります。

2つ目の役割は「国際競争力の確保」です。ロケットは政府系の人工衛星を打ち上げるだけでなく、国内外の民間の衛星会社から打ち上げを受注する「商業打ち上げ」も行います。近年はアメリカや中国など海外の打ち上げコストが低下する一方で、日本のH-IIAロケットはコストが高いために選定されにくくなっています。H3ロケットでは低コスト化を図るとともに柔軟な打ち上げに対応することで、年間6回程度の安定した打ち上げを実施することが計画されており、商業打ち上げの受注数増加が期待されています。

 

Source

  • Image Credit: JAXA, MHI
  • JAXA - H3 PRESS KIT

文/出口隼詩

-ads-

-ads-