【▲イギリスで開発中の太陽発電衛星からマイクロ波で電力を送るイメージ図(Credit: International Electric Company)】

宇宙空間から電力を送る「宇宙太陽光発電システム」の新しいコンセプト「CASSIOPeiA(Constant Aperture, Solid-State, Integrated, Orbital Phased Array)」の検討がイギリスで進行中です。宇宙太陽光発電システムは、実現すれば24時間365日電力を生成・供給できる可能性を秘めています。

宇宙で発電した電気をマイクロ波で地上に送電する「宇宙太陽光発電システム」

「CASSIOPeiA」計画の背景には、持続可能な発電方法の追求があります。イギリスは2021年に、カーボンニュートラル(※)を2050年までに実現する「ネット・ゼロ(Net-Zero)戦略」を打ち出しました。かつてイギリスでビジネス・エネルギー・産業戦略大臣を務めたGreg Clark氏は、少なくとも30〜40ギガワットの電力を持続可能かつ出力の制御が可能(dispatchable)な発電方式に頼る必要があるという談話を、2019年にタイムズ紙で発表しています。

※…温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量の差をゼロにすること

ネット・ゼロ戦略の推進にあたって期待されている発電方法の1つが、宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power System: SSPS)です。宇宙太陽光発電システムとは、宇宙環境下で太陽光発電を行ない、得られた電気をマイクロ波に変換して地球に送電する仕組みのこと。宇宙太陽光発電システムというアイディア自体は、アメリカ航空宇宙局(NASA)とエネルギー省(DoE)によって提案され、1970年代のエネルギー危機を発端に大規模な研究が行なわれました。

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1979年にNASAが公表した報告書では、5km×10kmのソーラーパネルで発電した5ギガワットの電力をマイクロ波に変換し、直径1kmのアンテナから送電することが想定されています。しかし、「CASSIOPeiA」のコンセプトを発案したIan Cash氏は、これほどの規模の人工物を静止軌道へ打ち上げるには現在の打ち上げ技術をもってしても総額約1.15兆ドルもの費用(ファルコン9もしくはファルコンヘビーの打ち上げ費用をもとに試算)がかかると主張しています。

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【▲NASAが発案した宇宙太陽光発電システムの模式図(Credit: Ian Cash)】

「CASSIOPeiA」のコンセプトも、基本的な仕組みはNASAによるSSPSのアイディアとほぼ変わらないものの、太陽光を効率良く集める無駄のないデザインが意識されています。NASAのSSPSと比較すると、CASSIOPeiAの1ギガワットあたりの打ち上げコストは46倍効率が良い50億ドル(当時スペースXが開発中のBFR=ビッグ・ファルコン・ロケットによる打ち上げを想定、2018年11月に現在のスターシップに改名)だといいます。

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【▲CASSIOPeiAの仕組みを示した模式図(Credit: IOP Publishing)】

宇宙太陽光発電システムの課題

それでもなお、宇宙太陽光発電システムの実用化にはクリアしなければならない問題があるようです。人工衛星の巨大化に伴うコストの上昇は不可避であり、実証実験でさえ構造物の幅は数マイルにも及ぶため、完成までにはスターシップを約300回打ち上げる必要があるといいます。

加えて、電気をマイクロ波に変換して地球に送電する方法は、現状では非常に効率が悪いといいます。マイクロ波は地球の大気を通過する際にエネルギーを失いますが、同プロジェクトに参加するAirbus Blue SkyのJean-Dominique Coste氏によると、技術実証で使用したシステムの効率はわずか5%ほどだったといいます。

実用化する上では、この効率を少なくとも20%に高めなければ意味がないといいます。

2043年の完全運用を目指す

これらのハードルを乗り越えて宇宙太陽光発電が実現すれば、天候の悪く太陽光発電に向かないイギリスと違って、24時間365日発電することが可能です。

「CASSIOPeiA」計画を進めるSpace Energy Initiativeは、2039年2ギガワットを発電できる「太陽発電衛星(Solar Power Satellite: SPS)」のプロトタイプを打ち上げ、2043年に完全な運用を目指すとしています。

関連: 中国が宇宙太陽光発電システム建設のために、約900トンの超重量級ロケットを利用

 

Source

文/Misato Kadono

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