地球の周回軌道に位置する人工衛星は、地上や宇宙などから様々なデータをセンサーで収集しています。気候変動に大きく影響を及ぼす太陽光もまた、人工衛星が測定するデータのひとつです。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、太陽光によって与えられるエネルギー量を測定するためのチップ(集積回路)ベースの装置を新たに開発しました。
地球の気候システムを特徴づける太陽定数
気候システムに与えられるエネルギーの多くは太陽光に由来しています。太陽から地球に届くエネルギー量と地球から放出されるエネルギー量を計測することができれば、太陽光が地球に与えるエネルギー量を計測できます。このエネルギー量は太陽定数(全太陽放射照度あるいはTSI)と呼ばれています。
太陽定数は、1978年以降約40年間に渡り、アメリカの人工衛星「ニンバス」7号や「ACRIMSAT」、国際宇宙ステーションに設置された「TSIS-1」などによって監視されてきました。太陽から放射されたエネルギー量を計測する役割を担っているのは「ボロメーター」という放射計です。ボロメーターは、照射によって発生した熱で光のエネルギー量を測定する装置です。
TSIS-1のような従来の太陽放射照度モニター(Total Irradiance Monitor、以下TIM)は測定の不確かさが約0.01%未満と信頼性が高いものの、縦1.2メートル、横1.2メートル、高さ2.4メートル、質量363キログラムと大きく、比較的高価だという難点があったようです。
今回NISTが開発したのは、「コンパクト型太陽放射照度モニター(Compact Total Irradiance Monitor、以下CTIM)」と呼ばれる監視装置です。CTIMはTSIS-1の縮小版とも呼ぶべき装置で、6UサイズのCubeSat(※)に組み込まれています。
※…1Uサイズは約10×10×10センチメートルに相当する。
太陽から放射されるエネルギーを吸収するのは、シリコン基板上に配置されたカーボンナノチューブです。カーボンナノチューブは紫外線から赤外線まで幅広い波長の光を吸収するため、ボロメーターの設計に都合のよい素材だといいます。NISTは、カーボンナノチューブを使用することで約10分の1までコストを削減できるとしています。
NISTはすでにCTIMの試作機を作成し、ヴァージン・オービット社の空中発射ロケット「ランチャー・ワン(Launcher One)」を使って2022年7月2日に打ち上げました。CTIMには8個の放射計が設置されていて、そのうち2個は実際に太陽から放射されるエネルギー量の変化を監視。残る6個は太陽を定期的に観測するのみで、宇宙空間に晒されることでどのくらい劣化するのかを理解するのに役立てられるのだといいます。同装置は2年間データを収集する見込みです。
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【▲ CTIMのデモ動画(Credit: NASA)】
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NISTのJohn Lehman氏は「CTIMはPoC(概念検証)の段階ではあるが、進展するにつれ、2年間のデータを収集し、科学者が(太陽定数に関する計量)標準を再定義できるだけの十分な量のデータとなるだろう」と期待を寄せています。
Source
- ・Image Credit: Tim Hellickson, LASP
- ・NIST - Measuring Sunlight from Space, on a Chip
- ・doi: 10.1117/12.2531308 - Compact total irradiance monitor: Flight demonstration
- ・University of Colorado Boulder - Total Solar Irradiance Data
文/Misato Kadono