こちらは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「InSight(インサイト)」が2022年12月11日に撮影した画像です。
地面に置かれているドーム状の装置は、4年前の2018年12月に設置された火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」です。夕刻の太陽に照らされたSEISや、手前のインサイト本体へと伸びるケーブルなどは塵に覆われていて、火星の赤茶色の大地と同化しつつあるような印象を受けます。
NASAはインサイトから送られてきた画像を逐次公開してきましたが、ミッション1436ソル目(※)に撮影されたこの画像以降、インサイトから新たな画像は届いていません(日本時間2022年12月20日午前の時点)。NASAは12月19日付で、前日の12月18日にインサイトと交信を試みたものの応答が得られなかったことを明らかにしました。最後にインサイトと交信できたのは12月15日で、引き続き交信を試みるとしています。
※…1ソル(Sol)=火星での1太陽日、約24時間40分。
2018年11月27日に火星のエリシウム平原に着陸して以来、インサイトは太陽電池アレイに塵が少しずつ降り積もったことで発電電力量が低下し続けており、ミッションは電力不足によって2023年1月頃までに終了すると予測されていました。NASAは12月20日にインサイトミッションの公式Twitterアカウントにて、これが最後に送信できた画像になるかもしれないとして、冒頭の画像を紹介しています。
My power’s really low, so this may be the last image I can send. Don’t worry about me though: my time here has been both productive and serene. If I can keep talking to my mission team, I will – but I’ll be signing off here soon. Thanks for staying with me. pic.twitter.com/wkYKww15kQ
— NASA InSight (@NASAInSight) December 19, 2022
【▲ 冒頭の画像をシェアしたインサイトミッション公式アカウントのツイート】
関連:NASA火星探査機インサイトが地震波の観測中断 砂嵐の影響で電力低下(2022年10月14日)
インサイトは火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月に設置されたSEISは史上初めて火星の地震(火震)を検出することに成功しました。これまでにSEISが検出した1300件以上の地震波の解析によって、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。
インサイトのミッションは着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで2年間延長されており、2022年5月4日には火星での観測史上最大の規模となるマグニチュード(M)4.7の地震が検出されました(カタログでの名称はS1222a、以前にM5の地震としてNASAなどから発表されていたもの)。それまでにインサイトが検出した最大の地震の規模はM4.2でしたが、M4.7の地震ではその5倍以上のエネルギーが放出されたことになります。
12月14日にはこの地震の分析を行ったパリ地球物理研究所の川村太一さんを筆頭とする研究チームによる論文が、アメリカ地球物理学連合(AGU)の学術誌Geophysical Research Lettersに掲載されました。インサイトが検出した地震の多くは着陸地点から東に約1600km離れたケルベロス地溝帯(Cerberus Fossae)を震源とするものの、M4.7の地震はケルベロス地溝帯のすぐ外側で起きたとみられており、地殻の下に隠された機構に関連している可能性があるということです。川村さんはインサイトのミッションについて「類まれな成功だったと思います」とコメントしています。
Source
- Image Credit: NASA/JPL-Caltech
- NASA - NASA InSight – Dec. 19, 2022
- AGU - The biggest Marsquake was 5 times larger than previous record holder
- Kawamura et al. - S1222a - the largest Marsquake detected by InSight (Geophysical Research Letters)
文/松村武宏