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【▲ 低コストかつ安全なハードランディングを目指す火星着陸機のコンセプト「SHIELD」(Credit: California Academy of Sciences)】

現在の月探査や火星探査では、パラシュートやロケットエンジンを使って探査機を減速させてから表面に着陸するソフトランディング(軟着陸)が行われています。アメリカ航空宇宙局(NASA)が過去に実施した火星探査ミッションでは、パラシュートで減速した後にエアバッグを展開して接地時の衝撃を吸収する方法が採用されたこともありました。最近ではロケットエンジンを搭載した降下ステージから吊り下げられて着陸するスカイクレーン方式のように、より高度な方法も採用されています。

火星探査機や火星探査車を開発・運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)では、もっと簡単に、さまざまな場所へ着陸できる、より低コストな着陸方法の研究が進められています。それはパラシュートもロケットエンジンもエアバッグも使わない一種のハードランディング(硬着陸)で、火星の表面に衝突する時の衝撃を専用の装置で吸収するという、単純かつ大胆な方法です。

■時速177kmで鋼板に衝突する試験を実施 搭載されていたスマートフォンなどは無事

2022年8月、JPLの落下塔では「SHIELD」と呼ばれる火星着陸機コンセプトの実物大試作品を使った衝突試験が行われました。SHIELDは「Simplified High Impact Energy Landing Device」(直訳すれば「簡素化高衝突エネルギー着陸装置」)の略称で、「盾」を意味する英単語「shield(シールド)」と同じ綴りになっています。

【▲ JPLの落下塔でテストが行われたSHIELDの実物大試作品(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ JPLの落下塔でテストが行われたSHIELDの実物大試作品(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

円筒でできた階段式ピラミッドを逆さまにしたような形のSHIELDは、天体表面への衝突時にアコーディオンのように潰れることでエネルギーを吸収し、搭載された科学機器などを衝撃から保護します。

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自動車のクラッシャブルゾーン(クランプルゾーン)を連想する機能ですが、開発チームの一員であるJPLのVelibor Ćormarkovićさんは実際に自動車業界で働いた経験があり、ダミーを搭載した自動車の衝突試験に携わっていたといいます。

【▲ 鋼板に衝突して跳ね返ったSHIELDの試作品。JPLの動画から引用(Credit: NASA/JPL-Caltech/California Academy of Sciences)】
【▲ 鋼板に衝突して跳ね返ったSHIELDの試作品。JPLの動画から引用(Credit: NASA/JPL-Caltech/California Academy of Sciences)】

JPLによると、火星大気圏への突入・降下・着陸(Entry, Descent, Landing:EDL)プロセスをSHIELDで簡素化することでコストが大幅に削減できる可能性があるだけでなく、探査機の着陸可能な範囲を広げることもできるようです。最新の火星探査車「Perseverance(パーシビアランス、パーセベランス)」のように重量が1トンを上回るような探査機や探査車では採用できないとしても、小型の科学機器や軽量のドローンなどであれば、SHIELDに搭載して火星へ着陸させられるかもしれません。

「現在の着陸システムを使う10億ドルもする探査車をリスクを冒してまで送り込みたくはならないような、もっと危険な場所にも行けると考えています」SHIELDのプロジェクトマネージャーを務めるJPLのLou Gierschさんはそう語ります。「ネットワークを構築するために、複数のアクセス困難な場所へ探査機を着陸させることもできるかもしれません」

【▲ JPLの落下塔で吊り上げられたSHIELDの実物大試作品。鋼板が敷かれた地面へ時速177kmで衝突させる試験が行われた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ JPLの落下塔で吊り上げられたSHIELDの実物大試作品。鋼板が敷かれた地面へ時速177kmで衝突させる試験が行われた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

8月12日に実施された衝突試験では火星表面到達時の速度を再現するために、SHIELDの試作品は時速177kmまで加速されて地面に衝突しました。また、これまでの試験では土に直接落下させていたものの、この試験では実際の火星表面よりも厳しい条件として地面に厚さ5cmの鋼板が敷かれており、衝突時にSHIELDが受けた力は約100万ニュートンに達しています。

これほどの衝撃力を受けながらも、模擬ペイロードとして搭載されていた電子機器(スマートフォン、無線機、加速度計)は無事だったといいます。破損したのは重要ではないプラスチック製の部品だけでした。JPLが公開している動画では、衝突時にSHIELDが潰れる様子や、試験後にスマートフォンを取り出す様子などを見ることができます。Gierschさんは「全体として、この試験は成功でした!」とコメントしています。

【▲ 2022年8月12日に実施されたSHIELD試作品の衝突試験を紹介するJPLの動画】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/California Academy of Sciences)

Ćormarkovićさんによれば、火星にハードランディングできるのであれば、もっと大気が厚い惑星や衛星でもSHIELDは使えるといいます。将来の火星や金星、それに土星の衛星タイタンを対象とした低コストな探査ミッションでは、SHIELDのコンセプトを採用した探査機が地表へ送り込まれることになるかもしれません。チームは次のステップとして2023年に着陸船の他の部分の設計にも着手し、このコンセプトがどこまで実現できるのかを確認する予定とのことです。

 

関連:NASAも注目する「回折式ソーラーセイル」どこが革新的なのか?

Source

  • Image Credit: California Academy of Sciences, NASA/JPL-Caltech
  • NASA/JPL – Why NASA Is Trying to Crash Land on Mars

文/松村武宏

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