【▲ 極低温推進剤充填テスト中のNASA新型ロケット「SLS」初号機。NASAのライブ配信より(Credit: NASA)】
【▲ 極低温推進剤充填テスト中のNASA新型ロケット「SLS」初号機。NASAのライブ配信より(Credit: NASA)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間9月21日、新型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」初号機の極低温推進剤充填テストを実施しました。NASAによると、テストの目標はすべて達成されたことが打ち上げディレクターによって確認されており、9月27日(日本時間28日未明)に予定されている次の打ち上げ機会までにデータの評価が進められる予定です。

■水素漏れ修理の評価などを実施、打ち上げディレクター「本当に上手くいった」

SLS初号機は、NASAが主導する月面探査計画「アルテミス」最初のミッションとなる「アルテミス1」の打ち上げに用いられます。アルテミス1はSLSおよび新型有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」の無人飛行試験にあたるミッションです。SLS初号機で打ち上げられたオリオンは月周辺を飛行した後、打ち上げから4~6週間ほど後に地球へ帰還する予定です。なお、SLS初号機には日本の「OMOTENASHI」「EQUULEUS」など10機の小型探査機も相乗りしています。

当初、SLS初号機は米国東部夏時間2022年8月29日(日本時間同日)に打ち上げられる予定でしたが、SLSのコアステージ(第1段)に4基搭載されている液体燃料ロケットエンジン「RS-25」の1基を始動前の目標温度まで冷却できなかったために延期。5日後の米国東部夏時間2022年9月3日(日本時間9月4日)にも打ち上げが試みられたものの、一部の配管で断続的に発生した液体水素漏れを止めることができず、再び延期されていました。

【▲ 動作テスト時に撮影されたテールサービスマストアンビリカル(TSMU)。手前側が液体水素用のTSMUで、クイックディスコネクトは配管やケーブルが集中しているトラス構造の先端(画像の白いプレート状の部分)と、SLSコアステージのエンジンセクションを接続するインターフェースを指す。現地時間2019年6月19日撮影(Credit: NASA/Ben Smegelsky)】
【▲ 動作テスト時に撮影されたテールサービスマストアンビリカル(TSMU)。手前側が液体水素用のTSMUで、クイックディスコネクトは配管やケーブルが集中しているトラス構造の先端(画像の白いプレート状の部分)と、SLSコアステージのエンジンセクションを接続するインターフェースを指す。現地時間2019年6月19日撮影(Credit: NASA/Ben Smegelsky)】

NASAによると、水素漏れは発射台基部の「テールサービスマストアンビリカル」(TSMU:Tail Service Mast Umbilicals)とコアステージのエンジンセクションをつなぐ「クイックディスコネクト」(Quick Disconnect)と呼ばれるインターフェースで発生しました。TSMUは打ち上げ前のエンジンセクションに推進剤の配管や電気配線を接続するためのもので、液体酸素用と液体水素用の合計2基が並んで設置されています。

TSMUからの水素漏れは、2022年4月と6月に実施された打ち上げリハーサルでも確認されています。リハーサル後にSLSと移動式発射台がロケット組立棟(VAB)へ戻された時にクイックディスコネクトのシール(密封装置)が交換されましたが、8月29日の打ち上げカウントダウンの際にも一時クイックディスコネクトからの水素漏れが発生していました。NASAによると、9月3日の打ち上げが延期された後に改めてコアステージ側のシールを交換したところ、2つの配管(※)のうち直径8インチの配管側のシールで小さなくぼみが見つかっており、これが9月3日に生じた水素漏れの原因となった可能性があるようです。

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※…コアステージの推進剤充填・排出に使う直径8インチ(約20cm)の配管と、充填中に一部の推進剤をリダイレクトするための直径4インチ(約10cm)の配管。

【▲ SLS初号機組み立て後に実施されたテールサービスマストアンビリカル(TSMU)などの動作テストの様子(動画)】
(Credit: NASA)

今回の極低温推進剤の充填テストは、水素漏れ修理の評価、新たな手順に従った推進剤の充填、エンジンの冷却試験、推進剤タンクの予圧試験を目的に実施されました。

米国東部夏時間2022年9月21日7時30分(日本時間同日20時30分)頃、打ち上げディレクターを務めるCharlie Blackwell-Thompsonさんからゴーサインが出されると、まずは液体酸素から充填がスタート。液体酸素の充填速度が低速から高速に移ると、続いて液体水素の低速充填が始まりました。この段階でTSMUにて水素漏れが検出され、充填は一時停止されたものの、クイックディスコネクトを温めて固定し直した上で充填を再開。液体水素のタンクへの高速充填が進められると同時に、液体水素の一部をエンジンに流して温度を下げる冷却操作の試験も行われました。

【▲ 極低温推進剤充填テスト中のテールサービスマストアンビリカル付近の様子。NASAのライブ配信より(Credit: NASA)】
【▲ 極低温推進剤充填テスト中のテールサービスマストアンビリカル付近の様子。NASAのライブ配信より(Credit: NASA)】

21日午後に入ると、コアステージのタンクは液体酸素と液体水素で満たされました。NASAによると、新たな推進剤の充填手順では漏洩が生じる可能性を低くするために温度と圧力がゆっくり移行するように計画されており、充填の再開以降はTSMUの水素漏れも許容範囲に収まっていたといいます。推進剤はコアステージに続いてSLS上段(第2段)のICPS(Interim Cryogenic Propulsion Stage)にも充填され、16時前にはICPSのタンクも満タンに。ICPSへの充填操作と並行してコアステージでは約1時間の予圧試験が行われ、タンク内の圧力が打ち上げ直前のレベルまで高められています。16時半頃には予定されていたすべての目標が達成され、推進剤の排出操作が行われました。

【▲ 極低温推進剤充填テストの完了を告げるNASA's Exploration Ground Systems(探査地上システム)のツイート】

冒頭でも触れたように、アルテミス1ミッションの直近の打ち上げウィンドウは米国東部夏時間2022年9月27日11時37分(日本時間9月28日0時37分)から70分間とされています。実際にこの日に打ち上げられるかどうかはまだ確定していませんが、打ち上げディレクターのBlackwell-Thompsonさんは「テストは本当に上手くいきました」と語っており、1週間後の打ち上げが期待できるかもしれません。

 

関連:NASAの月探査計画「アルテミス1」SLS打ち上げは日本時間9月28日以降に

Source

  • Image Credit: NASA
  • NASA - Artemis (NASA Blogs)
  • NASA - Artemis I Cryogenic Demonstration Test (YouTube)

文/松村武宏

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