アメリカ航空宇宙局(NASA)は7月20日付で、宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン(Nancy Grace Roman)」について、スペースXとの間で打ち上げ契約が締結されたことを発表しました。打ち上げサービスやその他ミッション関連の費用を含む契約総額は約2億5500万ドルで、打ち上げには「ファルコンヘビー」ロケットが使用されます。
ローマン宇宙望遠鏡は、宇宙の加速膨張や謎めいた暗黒エネルギー(ダークエネルギー)、それに近年発見が相次いでいる太陽系外惑星に関連した観測を行うために打ち上げが計画されている宇宙望遠鏡です。その名称は、NASAの初代主任天文学者を務めたナンシー・グレース・ローマン氏に由来しています。ローマン氏は早くから宇宙望遠鏡の必要性を認識し、その実現に向けて尽力したことから「ハッブル宇宙望遠鏡の母」とも呼ばれています。
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ローマン宇宙望遠鏡には直径2.4mの主鏡(ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡と同じサイズ)とともに、2つの観測装置が搭載されます。1つ目は広視野の近赤外線カメラ「WFI(Wide Field Instrument)」です。WFIはハッブル宇宙望遠鏡の100倍という広視野を持ちながら、ハッブル宇宙望遠鏡に匹敵する高精細な画像を取得することができる3億画素の撮像装置です。
2つ目は技術実証用のステラーコロナグラフ(※)装置「CGI(Coronagraph Instrument)」です。CGIは恒星が放つ強い光を遮ることで、恒星の周りにある太陽系外惑星やデブリ円盤を可視光線や近赤外線で直接観測するために搭載されます。CGIを搭載したローマン宇宙望遠鏡は、恒星と比べて10億分の1程度の明るさしかない惑星を観測することもできるといいます。
※…ステラーコロナグラフ:恒星からの光を遮るための装置、コロナグラフとも。
NASAによれば、ローマン宇宙望遠鏡は2026年10月に米国フロリダ州のケネディ宇宙センター39A射点から打ち上げられる予定です。打ち上げ後のローマン宇宙望遠鏡は、太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)の周辺に向かって観測を行います。運用期間は5年間の予定です(さらに5年間延長される可能性あり)。ちなみに太陽-地球のL2周辺では、先日科学観測を開始した「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡なども観測を行っています。
なお、ローマン宇宙望遠鏡の計画には宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとする日本の研究チームも参加しており、CGIの光学素子の製作、地上局による支援、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」による協調観測といった形で携わっています。宇宙論や系外惑星をはじめ様々な分野の研究に貢献することが期待されているローマン宇宙望遠鏡、4年後の打ち上げが楽しみです。
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- Image Credit: GSFC/SVS
- NASA - NASA Awards Launch Services Contract for Roman Space Telescope
- NASA - Roman Space Telescope/NASA
文/松村武宏