ロシア軍によるウクライナの「ロケット工場」空爆。欧米宇宙開発プログラムへの影響も懸念
【▲参考画像:YUZHMASH's Corporate Filmより(Credit: YUZHMASH YouTube)】
【▲参考画像:YUZHMASH's Corporate Filmより(Credit: YUZHMASH YouTube)】
【▲参考画像:YUZHMASH's Corporate Filmより(Credit: YUZHMASH YouTube)】

2022年7月15日金曜日の夜(現地時間)、ウクライナ中部に位置するドニプロペトロフスク州の工業都市、ドニプロの市街地がロシア軍によるミサイル攻撃を受けました。同州のヴァレンティン・レズニチェンコ州知事がフェイスブックに投稿したところによると、この攻撃で少なくとも3人が死亡し、15人が負傷したとされています。

【▲ Facebookに投稿されたヴァレンティン・レズニチェンコ州知事のコメント】

攻撃のターゲットとなったのは、宇宙ロケットや人工衛星、農業用のトラクター、その他各種部品などの産業機器を製造する「ユージマシ(ユージュマシュ:Yuzhmash)」社の工場でした。旧ソ連時代に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造する工場として発展した同社は、近年では保有する技術を平和利用目的に転換し、ヨーロッパやアメリカが主導する宇宙開発プログラムに参画し、主要な部品を供給する存在になっていました。

記憶に新しいところでは、ちょうど同じ週の7月13日に初めての打ち上げに成功した欧州宇宙機関(ESA)の小型ロケット「ヴェガC(Vega-C)」の最上段、4段目の「AVUM+」と呼ばれる液体燃料推進系に、再点火可能な「RD-843」型エンジンが採用されています。また、これ以前から運用されていた初期型のヴェガロケットにおいても最上段に類似のユージマシ社製エンジンが採用されていました。

【▲ 振動試験中の上段モジュール。2018年11月撮影(Credit: ESA)】

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アメリカのノースロップ・グラマン社がNASAと共同で国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ無人補給船「シグナス」の打ち上げに使用している「アンタレス(Antares 230+)」ロケットにおいても、1段目ブースターの液体燃料タンクの製造を含め主要なシステムの設計を担当しており、直近ではロシアによるウクライナ侵攻が始まる直前の今年2月19日にシグナス17号機(NG-17)が打ち上げに成功していました。

【▲参考画像:アンタレスロケットのユーザーガイドより(Credit: ノースロップグラマン)】
【▲参考画像:アンタレスロケットのユーザーガイドより(Credit: ノースロップグラマン)】

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本稿執筆時点において今回の空爆によってドニプロにあるユージマシ社の工場が受けた被害の詳細な状況や、上述の2つのケースを含む今後の宇宙開発プログラムへの影響については、わかっていない事が多くあります。「ヴェガC」ロケットに関しては、従来型の「ヴェガ」を含めて向こう3年間に20回以上の打ち上げが計画されています。一方の「アンタレス」に関しては、今後少なくとも2回の打ち上げが計画されており、英語圏の宇宙開発情報サイト『Spaceflight Now』に掲載された7月19日付の記事によれば、ノースロップ・グラマン社広報筋からの情報として、来月半ば頃の打ち上げが予定されていた次号機(シグナス18号機)は、「サプライチェーンの問題により」打ち上げ予定日が10月半ば頃まで延期となった報じられています。

何はともあれ、被害が最小限に留まり、宇宙開発プログラムへの影響がこれ以上生じない事を願うばかりです。

 

Source

  • Image Credit: YUZHMASH, ESA, ノースロップグラマン
  • ノースロップグラマン - Antares User’s Guide
  • BBC - Missile strike on Ukraine space plant in Dnipro kills three
  • REUTERS - Russian strike on Dnipro space plant kills three
  • Spaceflight Now - Supply chain issues delay Northrop Grumman’s next space station cargo flight

文/豊原行宏