まずは欧州宇宙機関(ESA)が公開したこちらの動画をご覧下さい。この再生時間1分ほどの短い動画には、日本時間2022年6月23日に水星へ接近したESAと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水星探査ミッション「BepiColombo(ベピ・コロンボ)」の探査機によって撮影されたモノクロ画像56枚が使われています。

動画は3つのパートに分かれています。1番目と2番目のパートでは、撮影方向が異なる2つのカメラで捉えられた水星の姿がそれぞれ写し出されます。最後の3番目のパートでは2つのカメラの映像が1つに組み合わされていて、遠ざかる水星の姿を球体として認識することができます。

【▲ ベピ・コロンボ第2回水星スイングバイ時に撮影された遠ざかる水星の姿(動画)】
(Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO; Music composed and performed by Anil Sebastian and Ingmar Kamalagharan.)

ベピ・コロンボは、日本の水星磁気圏探査機「みお(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)」と、欧州の水星表面探査機「MPO(Mercury Planetary Orbiter)」の2機による日欧共同の水星探査ミッションです。ここに両探査機の水星周回軌道投入前までの飛行を担当する欧州の電気推進モジュール「MTM(Mercury Transfer Module)」が加わり、現在3機は縦に積み重なった状態で飛行を続けています。

ベピ・コロンボ探査機は水星の周回軌道へ入るために、天体の重力を利用して宇宙機の軌道を変更する「スイングバイ」という手法を合計9回(地球で1回、金星で2回、水星で6回)実施して、少しずつ軌道を変更していきます。2022年6月23日に実施されたのは2回目の水星スイングバイで、探査機は水星表面から約200kmまで接近・通過しつつ観測や撮影を行いました。

【▲ 水星に接近したベピ・コロンボの探査機を描いた想像図。2枚の太陽電池パドルを広げているのが電気推進モジュール(MTM)。その上に載っているのが欧州の水星表面探査機(MPO)で、日本の「みお」(MMO)は筒状のサンシールド内部に搭載されている(Credit: ESA/ATG medialab)】

【▲ 初めて水星に接近するベピ・コロンボの探査機を描いた想像図。2枚の太陽電池パドルを広げているのが電気推進モジュール(MTM)。その上に載っているのが欧州の水星表面探査機(MPO)で、日本の「みお」(MMO)は筒状のサンシールド内部に搭載されている(Credit: ESA/ATG medialab)】

ベピ・コロンボの電気推進モジュール(MTM)には「モニタリングカメラ(MCAM)」と呼ばれる3台のモノクロカメラ(解像度1024×1024ピクセル)が搭載されていて、冒頭の動画ではMCAM2とMCAM3を使って撮影された画像が使われました。ESAによると、動画に使われたモニタリングカメラの画像は最接近の数分後から約15分間に渡って撮影されたものとなります(撮影時の水星表面からの距離はMCAM2が約920km~6099km、MCAM3が約984km~6194km)。

■直径1550kmの巨大な地形「カロリス盆地」や希少な火山の候補を撮影

【▲ MTMのモニタリングカメラ「MCAM2」を使って撮影された水星(注釈付き)。巨大なカロリス盆地が写っている(Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO)】

【▲ MTMのモニタリングカメラ「MCAM2」を使って撮影された水星(注釈付き)。巨大なカロリス盆地が写っている(Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO)】


こちらの画像は、ベピ・コロンボ探査機の第2回水星スイングバイ時にMCAM2を使って撮影された画像の1つに地形の名称を追加したものです。画像の左側に写っている棒状の物体は水星表面探査機(MPO)の磁力計で、右下に写っているのはMPOのミディアムゲイン(中利得)アンテナの一部です。

画像の中央付近に写っている周囲よりも明るい部分はカロリス盆地(Caloris Planitia)です。39億年前に形成されたと考えられているカロリス盆地は水星最大の衝突地形で、直径1550km。水星そのものの直径(4880km)の3分の1近くもある巨大な地形です。画像に写っているアジェ・クレーター(Atget、直径100km)とケルテス・クレーター(Kertesz、直径32km)は、どちらもカロリス盆地の内部にあります。

ESAによると、明るく見えるカロリス盆地は反射率の高い溶岩に覆われていて、その周囲には盆地を取り囲むように反射率の低い溶岩が広がっているといいます。興味深いのは、盆地の内外を覆う反射率が異なる溶岩の年齢は、どちらも同じくらい(カロリス盆地よりも1億年ほど若い)だと考えられているところ。これらの溶岩の組成の違いを測定して理解することは、ベピ・コロンボの重要な目標の一つとされています。

【▲ MTMのモニタリングカメラ「MCAM3」を使って撮影された水星(注釈付き)。ヒーニー・クレーターの内部には水星では希少な火山の候補があるという(Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO)】

【▲ MTMのモニタリングカメラ「MCAM3」を使って撮影された水星(注釈付き)。ヒーニー・クレーターの内部には水星では希少な火山の候補があるという(Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO)】

いっぽう、こちらは別の方向を向いているMCAM3を使って撮影された画像に地形の名称を追加したものです。画像右側に写っている丸い物体はMPOのハイゲイン(高利得)アンテナです。

ESAによると、ハイゲインアンテナの下に見える比較的滑らかな平原は、37億年前に噴出した溶岩流によって形成された平原の一例です。水星の火山活動では地球にみられるような火山は形成されなかったようですが、ハイゲインアンテナの隣に写っているヒーニー・クレーター(Heaney、直径125km)内部の小さな丘は希少な火山の候補とされていて、ベピ・コロンボのミッションにおける高解像度撮影の重要なターゲットの一つになるようです。

また、ヒーニー・クレーターの上に写っているアマラル・クレーター(Amaral、直径105km)の周辺には、小さなくぼみが無数に見えています。ESAによれば、これはアマラル・クレーターの形成時に放出された噴出物が落下したことで二次的に形成されたクレーター(二次クレーター)で、水星の新しいクレーターの周囲ではよく見られる地形とのことです。

なお、2025年12月に水星の周回軌道へ入るために、ベピ・コロンボの探査機は水星スイングバイをあと4回繰り返します。次の第3回水星スイングバイは、2023年6月20日に予定されています。

 

関連:日欧の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」探査機が第2回水星スイングバイを実施

Source

  • Image Credit: ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO; Music composed and performed by Anil Sebastian and Ingmar Kamalagharan.
  • ESA - Second helpings of Mercury

文/松村武宏