Nudol

【▲ ロシアが発射実験を行った直接上昇式ASAT「ヌードル」(Credit: GlobalSecurity.org)】

今日の世界は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した「新冷戦時代」への突入というリスクに直面しています。宇宙における軍事開発においても、米国、ロシア、中国といった超大国の枠組みを超えて大きなリスクへと発展している模様です。

米国のシンクタンク「Secure World Foundation」(以下、SWF)と「戦略国際問題研究所」(以下、CSIS)は、2022年4月4日に公表したレポートにて「宇宙妨害行為(counterspace)」の脅威を強調しています。

米国の安全保障を脅かす宇宙妨害行為の諸外国への拡散

宇宙妨害行為とは、人工衛星や地上システム、通信機器などの宇宙システムを混乱させたり破壊したりすること。SWFが公表した「世界における宇宙妨害行為の能力」2022年版では、宇宙妨害行為の能力開発や潜在的な使用に対するインセンティブ(動機)が高まっていることが言及されています。

宇宙妨害行為自体は新しい能力ではなく、米国やロシア(当時のソ連)によって長年に渡り開発が続けられてきました。しかしここ30年間で、宇宙妨害行為の能力は、「情報収集・警戒監視・偵察」(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance: ISR)や「衛星測位」(Positioning, Navigation and Timing: PNT)、「通信衛星」(SATCOM)などを活用し、戦車や砲兵などによる従来型の戦争を支援するという新しい役割を見出されました。結果として、攻撃面での宇宙妨害行為の能力を開発するためのインセンティブが大きくなった模様です。

同レポートで問題視されているのは、宇宙妨害行為の能力が米国やロシアといった超大国からほかの国に拡散(proliferation)する可能性です。宇宙妨害行為能力の拡散は地球上で軍事衝突を引き起こし、エスカレートさせるリスクを増大させるといいます。同レポートはこうした背景から、ロシアや中国、イランや北朝鮮だけでなく、日本やインドなどの国における宇宙妨害行為の能力も公開情報に基づき精査していると宣言しています。

いっぽう、CSISが発表したレポートでも、米国の安全保障上の利益を脅かす宇宙妨害行為が追跡されています。同レポートによると、これまで宇宙開発は米国とロシアの複占状態にあり、新しい宇宙妨害行為の能力を補完あるいは実証してきた一方で、宇宙は争いの舞台ではありませんでした。しかし、宇宙が敵国や競合国すべての利益に影響を及ぼすようになるなど、新しい時代に突入したと警告を発しています。

また、同レポートでは各国の宇宙妨害行為の能力も分析されています。たとえば中国は宇宙開発競争において後発でしたが、2021年には世界で最も多い52回のロケット打ち上げに成功しました。こうした打ち上げは、中国が地球周回軌道上の軍事支援能力拡大のために、ソフトパワーとハードパワー(※)の両方を投じる意図があることを証明するものだといいます。事実、中国は2007年に実施して批判を浴びたASAT(衛星攻撃兵器)テストなどを通して、宇宙妨害行為の能力を証明したと述べられています。

※ソフトパワー:他国を魅了・説得するための力、ハードパワー:他国に軍事・経済で圧力をかける力

一方、ロシアは旧ソ連時代に保有していた宇宙開発能力を引き継いだものの、その能力を維持するに留まり、民間の宇宙開発計画の進捗も遅かったといいます。しかし、同国は2021年の直接上昇式 ASAT「Nudol(ヌードル)」共通軌道式ASAT(※)のテストに成功。再び注目を集めるようになりました。

※直接上昇式ASAT:地上から発射して人工衛星を攻撃するミサイル、共通軌道式ASAT:同じ軌道上にある人工衛星に対して攻撃する衛星(キラー衛星とも)

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宇宙妨害行為の中で脅威的な存在となる「サイバー攻撃」

SWFのBrain Weeden氏は、こうした物理的な宇宙妨害行為よりも、サイバー攻撃の重要性に着目しています。ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日には、米国Viasat社の通信衛星「KA-SAT」に対する攻撃が明らかになりました。この攻撃では、送受信用モデムなど地上側のシステムに対する妨害行為が特徴的な出来事だったといいます。

Weeden氏によると、サイバー攻撃の特徴は比較的容易に実行可能なことだけではありません。サイバー攻撃の対象となる商用人工衛星システムを調査している政府機関や非政府機関は、脆弱性を発見し続けています。脆弱性の発生とその対策は謂わば「いたちごっこ」のような状態であるため、宇宙システムの製造者や開発者はサイバー攻撃側と同じレベルにたどり着かないかもしれないといいます。

CSISのTodd Harison氏も、物理的な破壊を伴わず、誰かの生命を脅かすこともないサイバー攻撃は、法律的な責任を問われないと見做されている可能性がある(実行する上で心理的なハードルが低い)点を強調しています。

 

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Source

文/Misato Kadono