変形型月面ロボット「SORA-Q(LEV-2)」。左は変形前、右は変形後の様子(Credit: タカラトミー)

【▲ 変形型月面ロボット「SORA-Q(LEV-2)」。左は変形前、右は変形後の様子(Credit: タカラトミー)】

株式会社タカラトミーは3月15日、同社が宇宙航空研究開発機構(JAXA)・ソニーグループ株式会社・同志社大学との4者共同で開発を進めてきた変形型の月面探査ロボット「LEV-2」(※)の愛称が「SORA-Q(ソラキュー)」に決まったことを明らかにしました。SORA-Qは2022年度に2機が打ち上げられる予定で、月面での走行や画像取得などを目指します。

※…LEVはLunar Excursion Vehicleの略

■玩具メーカーのノウハウが活かされた手のひらサイズの小型探査ロボ

変形型月面ロボット「SORA-Q」変形前の姿(右)(Credit: タカラトミー)

【▲ 変形型月面ロボット「SORA-Q」変形前の姿(右)(Credit: タカラトミー)】

SORA-Qは直径約8cm・質量約250gの月面探査ロボットです。タカラトミーによると、名称は宇宙を意味する「宙(そら)」、宇宙に対する「問い(Question)」「探求(Quest)」、その姿が「球体」であること、横からのシルエットがアルファベットの「Q」に似ていることなどから名付けられました。

小型ながらもSORA-Qには2台のカメラが搭載されており、別の探査機(後述)に通信を中継してもらうことで画像等を地球へ送信することができます。月面到達から画像送信までに要する時間は1~2時間程度を予定。バッテリーで駆動しますが再充電することはできず、ミッション終了後はその場に留まり続けることになります。

最大の特徴は、着陸後に左右へ分割する球体状の外殻です。この外殻は月面移動用の車輪を兼ねていて、左右別々に回転させることができます。車輪は回転軸が偏心していて、左右が協調して動く「バタフライ走行」と、別々に動く「クロール走行」という2種類の走行モードを駆使することで、平坦な地形だけでなく傾斜地での走行も可能とされています。

【▲ タカラトミーによるSORA-Qの紹介動画】
(Credit: タカラトミー)

SORA-QはJAXAの「宇宙探査イノベーションハブ」(※)の研究提案公募(RFP)の枠組みの下で、2016年から変形型月面ロボットとして研究がスタート。当初はJAXAとタカラトミーの2者体制でしたが、2019年にソニーが、2021年には同志社大学が加わって4者体制に。開発にはタカラトミーと同志社大学の筐体小型化技術、ソニーの制御技術、JAXAの開発技術や知見が活かされました。

※…様々な異分野の人材や知識を集めた組織を構築し、これまでにない新しい体制や取り組みの下で宇宙探査に係る研究の展開や定着を目指す事業

【▲ 人の手に乗せられた変形型月面ロボット「SORA-Q」(Credit: タカラトミー)】

球体にすることで輸送時の容積を小さく、着陸時の衝撃に強く、着陸後の姿勢がどのような角度でも展開・駆動の開始を可能としたSORA-Qは、変形する本体そのものが車輪の役割を担うことで小型化と軽量化が実現されました。その開発にはタカラトミーが玩具作りを通して培ってきた小型化・軽量化の知見や、変形機構についての技術が活用されているといいます。

■JAXAと民間の月着陸船に搭載されて2機打ち上げられる予定

【▲ 小型月着陸実証機「SLIM」の想像図(Credit: JAXA)】

冒頭でも触れたように、SORA-Qは2022年度に2機が打ち上げられる予定です。そのうちの1機はJAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」に搭載されて月面に運ばれます。

SLIMはX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を打ち上げる「H-IIA」ロケットに相乗りする形で、2022年度に打ち上げられる予定です。打ち上げ後のSLIMは月の「神酒の海」にある「Shioli」(シオリ、「栞」から)と命名された小さなクレーター付近の斜面(傾斜角10度程度)に着陸します。

SLIMは従来のように「着陸しやすい場所を選んで降りる」のではなく「着陸したい場所に降りる」ことを目指して開発された実証機で、特徴的な「二段階着陸方式」が採用されています。

SLIMはまず一般的な探査機のように垂直に降下して月面に接地しますが、その後は月面へ意図的に倒れ込み、水平姿勢で安定します。着陸後に垂直姿勢を保つには比較的平坦な地形を選んで降りる必要があるものの、水平姿勢なら傾斜した地形にも対応しやすいといいます。

【▲ SLIM、SORA-Q、LEV-1の月面着陸イメージ(Credit: タカラトミー)】

SORA-Qは別の探査ロボット「LEV-1」とともに高度1.8m付近でSLIMから分離され、球体の姿で月面に着陸します。着陸後は外殻が左右に分割するとともに、カメラを搭載した頭部や、姿勢を安定させる尾のようなスタビライザーを展開。左右の車輪を使って移動しながら前後の様子を撮影するなどしてデータを取得します。なお、タカラトミーによればSORA-Qの月面走行や撮影は自動で行われ、送信する画像の選択はSORA-Q自身が判断します。

LEV-1はJAXA・東京農工大学・中央大学などが開発した質量2.1kgの探査ロボットで、月面を飛び跳ねながら移動することができます。機体には可視光カメラ・加速度計・温度計などが搭載されている他に、地球との直接通信にも対応することから、LEV-1はSORA-Qの通信を中継する役割も担います(SORA-QとLEV-1はBluetoothで接続されます)。

【▲ SLIM、SORA-Q、LEV-1の月面着陸イメージ(Credit: タカラトミー)】

もう1機のSORA-Qは、株式会社ispace(アイスペース)の月面探査プログラム「HAKUTO-R」初のミッション「ミッション1」で月面へ運ばれます。

同社によればミッション1は日本の民間企業が主導する初の月着陸ミッションで、2022年末頃の打ち上げを予定。無人の月着陸船にはSORA-Qをはじめ、アラブ首長国連邦(UAE)ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)の月面探査ローバー「Rashid」など全部で7つのペイロードが搭載されます。ミッション1でのSORA-Qの通信は、ispaceの月着陸船が中継します。

【▲ 株式会社ispaceの月着陸船(ランダー)の想像図(Credit: ispaceウェブサイト)】

関連:ispace「ミッション1」の月着陸船は2022年末打ち上げ予定、組立作業は大詰めを迎える

SLIMに相乗りするSORA-Qのミッションでは、月面の低重力環境下における超小型ロボットの探査技術実証が目的とされています。タカラトミーによると、SORA-Qは以下の5つのポイントを踏まえてミッションに挑むといいます。

・月面に到達すること
・SLIMから分離して月面に着陸すること
・月面のレゴリス上を走行し、動作ログを取得、保存すること
・着陸機周辺を撮影し、画像を保存すること
・撮影した画像データ、走行ログ、ステータスをSLIM探査機とは独立した通信系で地上に送信すること

また、SORA-Qは将来の月面探査で必要とされる有人与圧ローバーの開発にも貢献します。

知られているように、月面の重力は地球上の約6分の1と低く、その表面はレゴリス(月面の砂)に覆われています。JAXAによると、将来の有人月面探査を見据えて2019年度から開始した有人与圧ローバーの概念検討の結果、自動運転技術や走行技術の詳細を検討するにあたり、実際に月面で画像等のデータを取得する必要があると判断されたといいます。

月面に到達したSORA-Qは、走行時のレゴリスの挙動や画像データ等を取得して地球へ送信します。こうして取得されたデータは、有人与圧ローバーの検討に活用されることになります。

日本の宇宙開発を担ってきたJAXAだけでなく、玩具メーカーのノウハウも注ぎ込まれて誕生したSORA-Q。ミッション開始が楽しみです!

 

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文/松村武宏