有人宇宙船「ソユーズMS-21」を搭載してバイコヌール宇宙基地を離床する「ソユーズ2.1a」ロケット(Credit: Roscosmos)

【▲ 有人宇宙船「ソユーズMS-21」を搭載してバイコヌール宇宙基地を離床する「ソユーズ2.1a」ロケット(Credit: Roscosmos)】

ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは日本時間2022年3月19日、有人宇宙船「ソユーズMS-21 “セルゲイ・コロリョフ”」を打ち上げました。今回打ち上げられたソユーズMS-21には、1950~60年代の旧ソ連にて黎明期の宇宙開発を率いたセルゲイ・コロリョフ(Sergei Pavlovich Korolev)の名が付けられています。

ソユーズMS-21にはロスコスモスのオレッグ・アルテミエフ(Oleg Artemyev)宇宙飛行士デニス・マトベーエフ(Denis Matveev)宇宙飛行士セルゲイ・コルサコフ(Sergey Korsakov)宇宙飛行士の3名が搭乗。同船を搭載した「ソユーズ2.1a」ロケットは、日本時間3月19日0時55分にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。

ロケットから切り離されたソユーズMS-21は地球を2周しながら高度を上げていき、打ち上げから3時間17分後の日本時間同日4時12分に、国際宇宙ステーション(ISS)ロシア区画のモジュール「プリチャル」へのドッキングに成功しました。ロシアのタス通信は同船のドッキングについて、自動ドッキングシステム「Kurs」に何らかの理由で問題が生じたため、手動で実施されたと報じています。

【▲ ソユーズMS-21到着後のISSの構成を示した図(Credit: NASA)】

3名の飛行士はドッキング成功後にISS船内へと入り、第66次長期滞在クルーの7名と無事合流しましたが、この時着用していたフライトスーツが注目を集めることになりました。

ドッキング後にISSの船内へ姿を現した3名は、黄色地に青のアクセントが目を引くフライトスーツを着用していました。今回のソユーズ宇宙船打ち上げは2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻が継続する状況の下で実施されましたが、黄色と青色ウクライナの国旗に用いられている2色と同じだったため、抗議の意思を示したのではないかとの憶測を呼ぶことになったのです。

【▲ 第66次長期滞在クルーの7名と合流したソユーズMS-21搭乗のクルー3名(Credit: Roscosmos)】

いっぽう、ロスコスモスのドミトリー・ロゴージン長官はこのフライトスーツの黄色について、3名が卒業したバウマン記念モスクワ国立工科大学のエンブレムの色だとしており、憶測を否定しています。なお、ロスコスモスのフライトスーツは主に青色のものが利用されていますが、白地に赤と青のカラーリングを施したもの(着用例:2021年4月の「ソユーズMS-18 “ユーリ・ガガーリン”」到着時)など、幾つかのバリエーションが存在しています。

【▲ バウマン記念モスクワ国立工科大学のエンブレムを示したロゴージン長官のツイート】

ISSへの有人飛行は現在、ロシアのソユーズ宇宙船(3人乗り)と、スペースXが運用するアメリカの「クルードラゴン」(4人乗り)によって行われており、ISSへの長期滞在は7名体制で実施されています。今回3名が新たに到着したことで、ISSには一時的に10名の宇宙飛行士が滞在しています。

10名のうち、アメリカ航空宇宙局(NASA)のマーク・ヴァンデハイ(Mark Vande Hei)宇宙飛行士ロスコスモスのピョートル・ドゥブロフ(Pyotr Dubrov)宇宙飛行士の2名は、2021年4月9日から1年近い滞在を継続中です。両名はロスコスモスのアントン・シュカプレロフ(Anton Shkaplerov)宇宙飛行士とともに3月30日にISSを離れ、地球へ帰還する予定です。

関連:NASAヴァンデハイ飛行士が米国人による宇宙連続滞在日数の記録を更新

ウクライナに対するロシアの軍事行動は、宇宙開発や宇宙探査の分野にも暗い影を落としています。フランス領ギアナのギアナ宇宙センターでは「ソユーズ」ロケットの打ち上げが全て中断しており、欧州宇宙機関(ESA)とロスコスモスの共同火星探査ミッション「ExoMars(エクソマーズ)」は2022年中の打ち上げ中止が決定しました。

関連:欧露共同の火星探査ミッション「エクソマーズ」2022年の打ち上げ中止が決定

【▲ 天底側から撮影されたISSの全体像。2021年11月にクルードラゴン「エンデバー」から撮影(Credit: NASA)】

そのいっぽうで、ISSを巡っては現在もロシアとの関係が続いています。先日アメリカ人宇宙飛行士の連続宇宙滞在記録を更新したヴァンデハイ飛行士は、予定通りソユーズ宇宙船に搭乗して地球へ帰還する予定とされています。また、エクソマーズの2022年打ち上げ中止を決定したESAも、ISSプログラムに関しては予定通り継続されていることを、現地時間3月17日に発表された声明に明記しています。

ただ、ISSでの協力関係も先行きは不透明です。タス通信によると、ロシア国内の企業に対する制裁解除を要求したロスコスモスのロゴージン長官は、NASA・ESA・CSA(カナダ宇宙庁、いずれもISSのパートナー)からの回答を3月末まで待つとしており、回答の内容が否定的だったり回答が無かったりした場合は「我々の決断の根拠となるだろう」と発言したことが伝えられています。

【▲ アポロ・ソユーズテスト計画で対面を果たしたNASAのドナルド・“ディーク”・スレイトン飛行士(上)と旧ソ連のアレクセイ・レオーノフ飛行士(下)(Credit: NASA)】

東西冷戦期に宇宙開発競争を繰り広げていた当時の米ソは、アポロ宇宙船とソユーズ宇宙船を軌道上でドッキングさせる「アポロ・ソユーズテスト計画」を1975年7月に実施。20年後にはアメリカのスペースシャトルがロシアの宇宙ステーション「ミール」を訪問する「シャトル・ミール計画」がスタートし、1995年6月には初のドッキングが実施されました。こうした両国の共同ミッションは、1998年に建造が始まったISSへと結びついていくことになります。

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【▲ 建造最初期の国際宇宙ステーション(ISS)。スペースシャトル「エンデバー」から1998年12月に撮影(Credit: NASA)】

こちらは1998年12月にスペースシャトル「エンデバー」から撮影された、建造最初期のISSです。左側は1998年11月に打ち上げられたロシアの基本機能モジュール「ザーリャ(Zarya)」、右側はエンデバーに搭載されてザーリャに取り付けられたばかりの第1結合部「ユニティ(Unity)」です。この2つのモジュールを足がかりに、ISSは10年以上の歳月をかけて組み立てられていきました。

ザーリャはロシア語で「日の出」、ユニティは英語で「統一、協力、結束」などを意味する言葉です。各国の協力体制が新たな日の出を迎える時が来ることを願って止みません。

 

関連:前澤友作さんたち3名が地球へ帰還、国際宇宙ステーションに12日間滞在

Source

  • Image Credit: Roscosmos, NASA
  • NASA Blogs - Space Station
  • JAXA 有人宇宙技術部門 - ソユーズMS-21宇宙船(67S)ミッション
  • TASS - Manual Soyuz MS-21 docking was due to Kurs system issue, cause unknown yet
  • TASS - Roscosmos to wait for ISS partners’ response until end of March - chief
  • CNN - Russia denies cosmonauts board space station in Ukrainian colours

文/松村武宏