ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した恒星「2MASS J17554042+6551277」。周囲には背景の銀河も写っている(Credit: NASA/STScI)
【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した恒星「2MASS J17554042+6551277」。周囲には背景の銀河も写っている(Credit: NASA/STScI)】

こちらは2021年12月25日に打ち上げられた新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」を使って撮影された画像。中央で明るく輝いているのは「りゅう座」の方向約2000光年先にある恒星「2MASS J17554042+6551277」です。

ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年1月下旬に太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」を周回するような軌道(ハロー軌道)へ到着。現在は科学観測に向けて光学望遠鏡要素(OTE※)の調整を行っています。画像はその一環として試験的に撮影されたもので、アメリカ航空宇宙局(NASA)から現地時間3月17日付で公開されました。

※…Optical Telescope Elementの略。主鏡や副鏡などの光学系やそれを支える構造、サブシステムなどを含むウェッブ宇宙望遠鏡の構成要素の一つ。

ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(Credit: Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator)
【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(Credit: Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator)】

ウェッブ宇宙望遠鏡の直径6.5mの主鏡18枚の六角形セグメントで構成されています。個々のセグメントで反射された光は長い支柱の先にある1枚の副鏡に集められて、そこからNIRCamなどの観測機器へと送られます。

ただ、ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡をはじめとした各部は折り畳み式の構造が採用されていて、打ち上げ後に宇宙空間で展開されました。展開直後の主鏡セグメントは打ち上げ時の位置にセットされたままなので、18個に分割されている主鏡を「1枚の鏡」として機能させるには、実際に星を観測しながら各セグメントの位置を精密に合わせる必要があるのです。

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次に掲載した画像は1か月前の2月11日に公開されたもので、ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した初の試験画像です。対象となったのは「おおぐま座」の方向およそ260光年先にある恒星「HD 84406」ですが、この時点では主鏡セグメントの位置合わせがまだ済んでいなかったため、1つの星の像が18個に分かれていました。

ウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRCam」が撮影した恒星「HD 84406」、2022年2月11日公開。注釈はどのセグメントが反射した像なのかを示している(Credit: NASA)
【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡の「NIRCam」が撮影した恒星「HD 84406」、2022年2月11日公開。注釈はどのセグメントが反射した像なのかを示している(Credit: NASA)】

関連:宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」から初の画像が到着! 主鏡を写したセルフィーも

最初の試験画像が撮影されて以来、ウェッブ宇宙望遠鏡の運用チームは光学望遠鏡要素の調整に取り組んできました。

18枚の主鏡セグメントと副鏡の裏側にはそれぞれ6つのアクチュエータが備わっていて、望遠鏡の焦点を合わせるために鏡を動かせるようになっています(主鏡セグメントの中央裏側には曲率調整用のアクチュエータも1つ備わっています)。最初に運用チームはバラバラに並んでいる星像を主鏡セグメントと同じように配列させて、次に18個の星像が1つに重なるように調整。その後は各セグメントの高さ方向の位置合わせも含めた微調整を進めてきました。

冒頭の画像は、1か月間に渡る光学望遠鏡要素の調整結果を確認するために撮影されたものです。これは科学観測を目的としたものではありませんが、ウェッブ宇宙望遠鏡の鋭敏な光学系とNIRCamは背景で輝く遠方の銀河まで捉えています。

また次の画像は、NIRCamに組み込まれている特殊なレンズを使って撮影されたウェッブ宇宙望遠鏡の新たな「セルフィー(自撮り)」です。画像には18枚の主鏡セグメントが同じ星からの光を一斉に反射している様子が捉えられています。

【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した新たな「セルフィー」。18枚の主鏡セグメントが同じ星からの光を反射している(Credit: NASA)】

NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡の光学系は正常に機能しています。主鏡で反射してから観測機器へと取り込まれる光の経路を妨げるような重要な問題は確認されておらず、チェックされた全ての光学パラメーターは期待通りかそれ以上のパフォーマンスを示しているといいます。

ウェッブ宇宙望遠鏡の光学望遠鏡要素副マネージャーを務めるNASAゴダード宇宙飛行センターのRitva Keski-Kuhaさんは「私たちは望遠鏡の調整を終えて星に焦点を合わせました、その性能は仕様を上回っています。科学に対してそれが意味するところに私たちはワクワクしています」と語っています。研究者と宇宙ファンから長年打ち上げが待ち望まれてきたウェッブ宇宙望遠鏡は、期待以上の成果を上げることになるかもしれません。

運用チームは科学機器の最終的な調整を準備し始める前に、今後6週間ほどかけて残りの調整手順を進めます。ウェッブ宇宙望遠鏡にはNIRCamの他にも「近赤外線分光器(NIRSpec)」「中間赤外線装置(MIRI)」「近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)」が搭載されており、この期間中には各観測機器の性能評価や最終的な望遠鏡の補正値算出が行われるといいます。ウェッブ宇宙望遠鏡が科学観測で取得した最初の画像は、2022年夏に公開される予定です。

 

関連:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡「次の恒星間天体」の観測に挑戦

Source

  • Image Credit: NASA/STScI
  • NASA - NASA’s Webb Reaches Alignment Milestone, Optics Working Successfully

文/松村武宏

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