【▲ 2022年にNIACプログラムの助成対象に選ばれた研究の数々を示したイラスト(Credit: (clockwise from upper R) Mather, Pilinski, Sauder, Benkoski, Lubin, Seager, Manchester, Schaler, D’Onghia, Dunbar, Bayandor, Pavone)】

未来のある日。カスタムメイドの宇宙服に身を包んだ宇宙飛行士が、現地の大気から生成された酸素を使って呼吸しながら火星の大地を歩く。金星の空では鳥のような姿をした膨張式のドローンが飛行し、金星の大気と気象パターンを調査する……。

まるでSF作品のような話ですが、この光景はそれほど遠くない将来に実現するかもしれません。アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間2月26日、「NIAC」プログラムの下で2022年の助成対象に選ばれた17の研究を発表しました。

NIAC(NASA Innovative Advanced Concepts)は将来のミッションに役立つ可能性がある先進的・革新的な技術を評価するべく、初期段階の研究に対してNASAが研究資金を提供するプログラムです。今年は9か月間の研究に17万5000ドルが援助される「フェーズ1」に12件、フェーズ1の次の段階として2年間の研究に60万ドルが援助される「フェーズ2」に5件が採択されました。

【▲ Bonnie Dunbarさんが提案したカスタムメイドのEVAスーツ製造方法のイメージイラスト(Credit: Bonnie Dunbar)】

冒頭で触れた“未来の光景”は、助成対象の発表にあわせてNASAが述べたものです。火星の光景には、製造業で活用されているデジタルスレッドを利用したカスタムメイドのEVA(船外活動)スーツ製造方法を提案したBonnie Dunbarさん(テキサスA&M大学)、従来の技術と比べて迅速かつ効率的に火星の大気から酸素を生成する手法を提案したIvan Ermanoskiさん(アリゾナ州立大学)の研究内容が反映されています。

金星の光景には、金星大気の高度50~60kmを飛行する膨張式の無人飛行機「BREEZE」を提案したJavid Bayandorさん(ニューヨーク州立大学)の研究内容が反映されています。BREEZE(Bioinspired Ray for Extreme Environments and Zonal Exploration)はカメラをはじめ合成開口レーダー、質量分析計、磁力計、比濁計などを搭載。金星の表面や磁場のマッピング、大気成分の測定、気象パターンの追跡などを行うことが構想されています。

【▲ Javid Bayandorさんが提案した無人飛行機「BREEZE」のイメージ動画】
(Credit: NASA)

残る14件の助成対象も興味深いものばかり、その一部をご紹介しましょう。Elena D’Onghiaさん(ウィスコンシン大学マディソン校)は、有人火星探査のような長期間のミッションに臨む宇宙飛行士を宇宙線から保護するシステム「CREW HaT」を提案しました。CREW HaTは超伝導体でできた8つのコイルを使って宇宙船の居住モジュール外側に磁場を生成し、飛来する宇宙線の半数を逸らせることができるといいます。

【▲ Elena D’Onghiaさんが提案した「CREW HaT」コンセプトのイメージ(Credit: Elena D’Onghia)】

2006年にノーベル物理学賞を受賞した天体物理学者のJohn Mather(ジョン・マザー)さん(NASAゴダード宇宙飛行センター)は、地上の望遠鏡と宇宙機を連携させたハイブリッド天文台「HOEE」(Hybrid Observatory for Earth-like Exoplanets)を提案しました。

Matherさんは近い将来登場する口径30~40mクラスの巨大な天体望遠鏡を使って地球に似た太陽系外惑星を直接観測するために、直径100mの傘のような宇宙機「スターシェード」(starshade)の打ち上げを構想しています。スターシェードは系外惑星が公転する恒星の光だけを遮ることで、地上の望遠鏡が系外惑星からの光を捉えやすくする役割を果たします。

【▲ John Matherさんが構想する「スターシェード」の軌道などを示した図(Credit: John Mather)】

また、Sara Seagerさん(マサチューセッツ工科大学)は、金星の大気からサンプルを採取して宇宙空間に運び上げるプローブ(突入観測機)を提案しました。Seagerさんが提案したプローブは気球と小型ロケットで構成されていて、小型ロケットには金星大気中の気体や雲粒を採取する装置が組み込まれています。

金星の大気に突入したプローブは気球を展開して滞空。高度50km前後でサンプルを採取したプローブは高度70kmまで上昇し、小型ロケットを打ち上げます。ロケットは高度100kmの金星周回軌道で待っていた探査機とランデブーし、サンプルが地球に持ち帰られる……という段取りです。

【▲ Sara Seagerさんが提案したプローブによる金星大気サンプル採取の行程を示した図(Credit: Sara Seager)】

なお、Seagerさんは金星の大気中に生息しているかもしれない生命の兆候を探すことを目的とした金星探査ミッション「Venus Life Finder」をすでに立ち上げており、将来的に金星大気のサンプルを地球へ持ち帰ることも構想しています。NIACで研究が採択されたプローブは、将来のミッションで実際に活躍することになるかもしれません。

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NASA宇宙技術ミッション局(STMD)副局長のJim Reuterさんは「宇宙を探索するNASAのミッションには、新たな技術と新たな手法が必要です。こうした創造的なアイディアを研究することは、フィクションを現実のものにするための最初のステップなのです」とコメントしています。

 

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  • Image Credit: NASA, Mather, Pilinski, Sauder, Benkoski, Lubin, Seager, Manchester, Schaler, D’Onghia, Dunbar, Bayandor, Pavone
  • NASA - NASA Selects Futuristic Space Technology Concepts for Early Study

文/松村武宏