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ホバリングしながら月面を探査するローバーの想像図(Credit: MIT)

【▲ホバリングしながら月面を探査するローバーの想像図(Credit: MIT)】

厚い大気を持たない月や小惑星の表面を、浮遊しながら探査する。将来の宇宙探査ミッションでは、そんな探査機が利用されることになるかもしれません。

米国・マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の大学院生Oliver Jia-Richards氏らの研究グループは、月面を浮遊しながら移動する新しいローバーのアイディアを考案・検証しました。研究グループによると、このローバーは月面に電荷を加えることで浮遊するといいます。

月や小惑星といった大気をもたない天体では、太陽から放射された「プラズマ」と呼ばれる電荷を帯びた粒子が表面に衝突することで、「電場」という電荷を帯びた領域が発生します。発表によると、静電気で髪が逆立つように、発生した電場は埃を月面から1m以上浮遊させるほどの強さがあるといいます。

米国航空宇宙局(NASA)の研究者らはこの現象を利用して、グライダーを浮遊させるアイディアをすでに考案していました。研究者らは、空気のない天体の表面にもともと存在する表面電荷と同量の電荷を帯電できる「マイラー」という素材をグライダーの翼に活用。地表と翼の表面に存在する電荷が反発しあうことで、グライダーが浮遊するはずだといいます。

ところが、このアイディアは重力の小さな小惑星などでは実現可能なものの、月のようにより大きな天体では重力が強いため、グライダーの大きさ(質量)が制約されるという課題があったといいます。Jia-Richards氏らの研究グループは、このグライダーの大きさに関する問題を回避することに成功しました。

研究グループは今回、SFなどに登場するUFOのような円盤状のローバーをモデル化しました。ローバーからイオンビームを照射し、ローバー自身を帯電させたり月面の電荷を強めたりすることで、ローバーと月面の間に大きな斥力が生じるといいます。研究グループはこのモデルを使って、月面でローバーを1cm以上浮遊させるためには50kVのイオンビームを81ミリ秒照射する必要があると予測しました。

ローバーの模型の概念図。搭載された5基のエミッターからイオンビームが照射される(Credit: Jia-Richards, O., Hampl, S. K., and Lozano, P. C.(2021))

【▲ローバーの模型の概念図。搭載された5基のエミッターからイオンビームが照射される(Credit: Jia-Richards, O., Hampl, S. K., and Lozano, P. C.(2021))】

創案したアイディアを検証するために、研究グループはイオン液体をイオン源とする5基のイオンスラスターを搭載した皿状の小型ローバーを試作しました。ローバーの試作機は半径約7.5cm、厚さ約3cm、重量60g程の手のひらサイズで、イオン液体を含んだ貯水装置とノズルで接続されており、電圧を加えると電荷を帯びたイオンビームがスプレー状に放出される仕組みです。

また、研究グループは空気のない天体の環境で起こりうることを再現するために、月や小惑星の表面に似た環境を真空チャンバーを使って用意しました。真空状態のチャンバー内部でローバーの試作機をばねで吊るし、イオンビームを照射した際に生じる力を計測した結果、モデルで予測された円盤状のローバーを浮遊させるのに必要な力の大きさとほぼ合致しました。

空気のない天体で振る舞うローバーを再現した実験装置。真空チャンバーの内部でローバーの模型がばねで吊るされ(左図)、ばねと接続した棒で移動した距離を計測できる仕組み(右図)(Credit: Jia-Richards, O., Hampl, S. K., and Lozano, P. C.(2021))

【▲空気のない天体で振る舞うローバーを再現した実験装置。真空チャンバーの内部でローバーの模型がばねで吊るされ(左図)、ばねと接続した棒で移動した距離を計測できる仕組み(右図)(Credit: Jia-Richards, O., Hampl, S. K., and Lozano, P. C.(2021))※クリックで拡大】

研究グループは、創案したローバーの実現について楽観的な見通しをもっているようです。研究グループのひとりPaulo Lozano氏はこう述べます。

「ローバーを浮遊させることができれば、車輪やサスペンションなどの可動部品について思い悩む必要はなくなります。たとえば小惑星の地形は全体的に起伏に富んでいますが、ローバーを浮遊させ続けるように制御することさえできれば、物理的に(衝突を)回避することなく移動できるはずです」

 

Image Credit: MIT
Source: MIT, doi:10.2514/1.A35001
文/Misato Kadono

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