NASAの輸送機「スーパーグッピー」がオリオン宇宙船の耐熱シールドを空輸
【▲モフェット連邦飛行場に着陸したNASAの輸送機「スーパーグッピー」(Credit: NASA/Ames Research Center/Don Richey)】

こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究センターにほど近い、カリフォルニア州のモフェット連邦飛行場で現地時間11月9日に撮影された写真です。夕空を背景に写っているのは、NASAが所有する輸送機「スーパーグッピー」の特徴的な姿です。

スーパーグッピーは1940年代に開発されたボーイング社製の輸送機「C-97」をベースに開発された特殊な輸送機です。最大の特徴は機体上部に設けられた貨物室で、スーパーグッピーは貨物を背負うようにして運搬します。貨物室の内径はおよそ25フィート(7.62メートル)、容積は3万9000立方フィート(およそ1100立方メートル)。貨物室の扉は機首部分が兼ねており、機首全体を左に最大110度開くことで貨物の積み下ろしを行います。

【▲スーパーグッピーの貨物室から搬出されるオリオン宇宙船の耐熱シールド(Credit: NASA/Ames Research Center/Don Richey)】

スーパーグッピーはアポロ計画の頃から活躍しており、サターンV型ロケットの一部帰還後のアポロ司令船国際宇宙ステーション(ISS)の構成要素などを運搬してきました。撮影されたのは1980年に初飛行した機体で、もともとはエアバス社が所有していました。1997年にNASAへ移ってからは、以前使われていた機体からスペアパーツを確保しつつ運用が続けられています。

今回スーパーグッピーが輸送したのは、NASAが推進する月面探査計画「アルテミス」で予定されているミッションのうち、3回目の有人ミッションとなる「アルテミス4」で飛行する新型有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」の耐熱シールドです。直径5mの耐熱シールドはオリオン宇宙船の底面に装着されるもので、地球に帰還するオリオン宇宙船を大気圏再突入時の熱から保護する重要な構成要素です。

【▲「アルテミス2」ミッションで飛行するオリオン宇宙船の耐熱シールド(Credit: NASA/Isaac Watson)】

耐熱シールドはチタン製の骨組みをカーボンファイバーが覆う構造で、その表面にはAVCOATと呼ばれるアブレーション材料(※)でできた180個以上のブロックが貼り付けられています。NASAによると、時速約4万kmで大気圏に再突入するオリオン宇宙船の耐熱シールドは摂氏約2700度という高温にさらされるものの、表面に貼り付けられたブロックが気化することで熱が内部に伝わるのを防ぎ、宇宙船を保護する役割を果たすといいます。

※…大気圏再突入時の熱から機体を保護するための部品に使われる素材

【▲ 大気圏に再突入した新型宇宙船「オリオン」を描いた想像図(Credit: NASA)】

なお、アルテミス計画では2025年以降に同計画初の有人月面着陸を行う「アルテミス3」ミッションが予定されており、アルテミス4はその次に実施されます。また、アルテミス計画における最初のミッション「アルテミス1」はオリオン宇宙船と新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」の無人テスト飛行にあたるミッションで、2022年2月に実施される予定です。

 

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Image Credit: NASA/Ames Research Center/Don Richey
Source: NASA Ames
文/松村武宏