NASA「アルテミス計画」有人月面着陸は2025年以降に、新型コロナや訴訟も影響
月周回有人拠点「ゲートウェイ」に接近する「オリオン」宇宙船を描いた想像図(Credit: NASA)
【▲月周回有人拠点「ゲートウェイ」に接近する「オリオン」宇宙船を描いた想像図(Credit: NASA)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間11月10日、NASAが進めている月面探査計画「アルテミス」における最初の有人月面着陸が2025年以降に実施される見通しであることを明らかにしました。アルテミス計画で最初に有人月面着陸を行う「アルテミス3」ミッションは2024年の実施が予定されていましたが、少なくとも1年先送りされることになります。

■2024年着陸は技術的に不可能、月着陸船を巡る訴訟などの影響も

アルテミス計画では1960~70年代に実施された「アポロ計画」以来となる有人月面探査が行われる予定です。NASAによると少なくとも10回の月面着陸が計画されていますが、アルテミス計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査も見据えており、無人探査機による月の南極域に埋蔵されているとみられる水の氷の探査や、月のレゴリス(細かな砂)から酸素を抽出する技術の実証実験なども計画されています。

ただ、半世紀途絶えている有人月面探査を再開するには、地球と月を往復するための宇宙船や月着陸船、これらを打ち上げるためのロケット、月面活動を行うための宇宙服といったハードウェアの開発・製造が欠かせません。

SLS(スペースローンチシステム)初号機へのオリオン宇宙船搭載作業の様子(Credit: NASA/Frank Michaux)
【▲SLS(スペースローンチシステム)初号機へのオリオン宇宙船搭載作業の様子(Credit: NASA/Frank Michaux)】

NASAの新型有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」と新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」は初号機の組み立てが終わり、2022年2月に予定されている無人の「アルテミス1」ミッションにおいていよいよ実機が飛行する予定ですが、月着陸船「HLS(Human Landing System、有人着陸システム)」や月面活動用の宇宙服「xEMU(Exploration Extravehicular Mobility Unit)」は開発途上の段階です。

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また、司令・機械船と着陸船を同時に打ち上げたアポロ計画とは異なり、オリオン宇宙船とHLSは別々に打ち上げられます。月面を目指す宇宙飛行士はまずオリオン宇宙船で月周回有人拠点「Gateway(ゲートウェイ)」に向かい、ここでHLSに乗り換えることが計画されています。ゲートウェイは地球からの輸送コストが月の低軌道と比べて約7割で済む「NRHO(near-rectilinear halo orbit)」と呼ばれる細長い楕円軌道に建設される予定の宇宙ステーションで、持続的な月面探査を支える中継地点としての役割を担います。ゲートウェイ最初の構成要素は2024年5月以降に打ち上げ予定とされています。

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NASAは計画が「アルテミス」と命名される以前の段階では2028年の有人月面探査再開を目指していましたが、2019年3月に当時のトランプ政権によってスケジュールが前倒しされたことで、この目標は2024年に繰り上げられました。NASAのビル・ネルソン長官は10日の発表において「可能な限り早期にかつ安全に月へ戻ることはNASAの優先事項です」としつつも、トランプ政権が掲げた目標は技術的に不可能だと言及しています。

アルテミス3の実施が2025年以降に先送りされたのは技術的な課題だけが理由ではありません。ネルソン長官は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響をはじめ、議会が承認したHLS関連の予算不足や、HLSの開発企業選定を巡る訴訟によって生じた約7か月の遅延を指摘しています。

月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のスターシップを描いた想像図(Credit: SpaceX)
【▲月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のスターシップを描いた想像図(Credit: SpaceX)】

HLSの開発に関しては2020年5月に選定されたブルー・オリジンダイネティクススペースXの3社が競っていましたが、2021年4月に「スターシップ」の派生型を提案したスペースXが最終的に選ばれました。1社単独が選定された背景にはNASAの予算不足があったと報じられています。ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、ドレイパーの3社を率いるブルー・オリジンはその後、NASAの決定に不服を申し立てて裁判を起こしましたが、米連邦請求裁判所は2021年10月ブルー・オリジンの訴えを退けています。

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NASAのパメラ・メルロイ副長官は、SLS、オリオン、ゲートウェイ、HLS、地上のシステム、通信、宇宙服などに至るアルテミス計画の取り組みは人類の偉大な事業の一つだと言及した上で、「まずは月へ、そして火星へ。私たちはNASAであり、困難に立ち向かっています」とコメントしています。

なお、アルテミス計画では日本をはじめ10か国(アメリカを含む)による国際協力が確認されています。このうちゲートウェイにロボットアーム「カナダアーム3」を提供するカナダ宇宙庁(CSA)は、アルテミス計画初の有人飛行にあたる「アルテミス2」ミッションとその後のミッションに1名ずつ、合計2名の宇宙飛行士が参加することでNASAと合意しています。

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日本もゲートウェイの居住モジュール建造や新型の無人補給船「HTV-X」による補給ミッションなどの形で参加が予定されており、アルテミス計画のミッションに日本人宇宙飛行士が加わる可能性もあります。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では同計画も見据えた13年ぶりの宇宙飛行士募集を予定しており、日本としてもアルテミス計画の進展からは目が離せません。

 

Image Credit: NASA
Source: NASA
文/松村武宏