ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のクリーンルームから搬出される「DART」の探査機(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Ed Whitman)

【▲ ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のクリーンルームから搬出される「DART」の探査機(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Ed Whitman)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、2021年11月下旬以降に「DART」というミッションの探査機打ち上げを予定しています。DARTとは「Double Asteroid Redirection Test」(二重小惑星方向転換試験)の略で、探査機を衝突させて小惑星の軌道を変えることが試みられます。史上初めて惑星防衛(※)の技術を検証するミッションの探査機は、10月2日にカリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地に到着。現在打ち上げに向けた準備が進められています。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと

■天体衝突を回避するための技術を初めて実証する歴史的なミッション

2013年2月にロシア上空で爆発して1000名以上を負傷させた小惑星のように、地球への天体衝突は現実の脅威です。地球に接近する軌道を描く小惑星は「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object)と呼ばれていて、そのなかでも特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されており、将来の衝突リスクを評価するために追跡観測が行われています。

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もしも小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断されたとしても、事前に衝突体(インパクター)をぶつけて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす衝突を回避できるかもしれません。DARTは「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれるこの手法を初めて実証するミッションです。

【▲ DARTのミッションを解説したイラスト。探査機(Spacecraft)が衝突することで、ディディモス(Didymos)を周回するディモルフォス(Dimorphos)の軌道が変化する(白→青)と予想されている(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

DARTのターゲットとなるのは小惑星「ディディモス」((65803) Didymos、直径780m)の衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)です。2021年11月24日~2022年2月15日の期間にスペースXの「ファルコン9」ロケットで打ち上げられるDARTの探査機はディディモスへと向かい、2022年9月26日~10月2日のどこかでディモルフォスに衝突してミッションを終えます。質量610kgの探査機が秒速6.6kmで衝突することで、ディディモスを周回するディモルフォスの軌道には地球からの観測でも検出できる変化が生じると予想されています。

ミッションを主導するジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所によると、ディディモスはキネティックインパクトを実証する上で理想的ではあるものの、その軌道は地球の軌道とは交差しないと予測されており、実際の脅威になることはないとされています。また、DARTの体当たりではディモルフォスを破壊することまではできず、変化後のディモルフォスの軌道はディディモスに近付くことになるといい、ミッションによる万が一の事態も考慮して慎重に計画されていることが伺えます。

太陽電池アレイを展開したDARTの探査機を描いた想像図(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)

【▲ 太陽電池アレイを展開したDARTの探査機を描いた想像図(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)】

DARTの探査機は本体のサイズがおよそ1.2×1.3×1.3mと小さく、展開時の長さが8.5mの太陽電池アレイ「ROSA(Roll-Out Solar Array)」を2基備えています。ROSAには国際宇宙ステーション(ISS)への増設作業が進められている新型の太陽電池アレイ「iROSA(ISS Roll-out Solar Array)」と同じ技術が用いられており、キセノンを利用した電気推進システムなどに電力を供給します。

現在探査機は一連の最終テストやチェックが進められています。「衝突体を体当たりさせて小惑星の軌道をそらす」という今はまだ確立されていない技術が、将来予測される被害を防ぐために役立つ日がいずれやってくるかもしれません。

 

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Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Ed Whitman
Source: NASA / JHU APL
文/松村武宏

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