【解説】イプシロンロケット、打ち上げ19秒前に緊急停止 原因は追跡レーダの時刻情報異常

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝属郡肝付町)からのイプシロンロケット5号機打上げを直前で中止しました。打上げは10月1日9時51分21秒~同55分16秒に予定されていました。

不具合を起こした可搬型ドップラーレーダの外観。撮影地は種子島宇宙センター(Credit: ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)
【▲ 不具合を起こした可搬型ドップラーレーダの外観。撮影地は種子島宇宙センター(Credit: ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)】
格納状態の可搬型ドップラレーダ(Credit: しないつぐみ/東京とびもの学会)
【▲ 格納状態の可搬型ドップラレーダ(Credit: しないつぐみ/東京とびもの学会)】

原因となったのは「可搬型ドップラーレーダ」です。これはロケットが正常に飛行しているかを追跡する飛行管制システムのひとつで、時刻信号に異常なデータが断続的に発生することが打ち上げ予定時刻の十数分前より確認されました。JAXAでは、打ち上げにかかわる制約条件のうち「飛行安全系・射場系の各設備が正常に動作し、ロケットからのデータ取得および飛行安全管制に支障がないこと」という項目を満たさないと判断し、打ち上げ19秒前手動で緊急停止を行ったということです。

現在のところ、ロケット本体や搭載されている衛星に不具合はなく、速やかに原因究明と対策を行って打ち上げたいとの意向を示しましたが、具体的な日程は未定とのことです。

追跡レーダの役割

ロケットは、事前に飛行計画を作成して打ち上げます。これには飛行時間と飛行コース、許容誤差が含まれています。レーダの時刻情報が間違ったままだと、レーダの推定するロケットの現在位置と実際の位置がずれてしまいます。これだと飛行計画に沿って正常な飛行をしているか判定する役割が果たせないため、安全上の問題があるとの判断にいたったとのことです。

今回不具合を起こしたレーダは、イプシロンとH-IIAロケットの共用設備です。普段は種子島宇宙センターに置いてありますが、必要に応じて内之浦に運び、射点からおよそ3km離れた宮原(みやばる)地区のレーダセンターに設置して運用します。今回もここで運用されていました。なお、不具合の原因によっては今月25日に行われるH-IIAロケット44号機の打ち上げにも影響する可能性があるとJAXAは述べています。

内之浦における可搬型ドップラーレーダの設置位置(Credit: 岡澤知行/東京とびもの学会)
【▲ 内之浦における可搬型ドップラーレーダの設置位置(Credit: 岡澤知行/東京とびもの学会)】
トラックに牽引され運搬中の可搬型ドップラーレーダ(写真:ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)
【▲ トラックに牽引され運搬中の可搬型ドップラーレーダ(Credit: ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)】
内之浦への搬送のため船積みされる可搬型ドップラーレーダ(Credit: ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)
【▲ 内之浦への搬送のため船積みされる可搬型ドップラーレーダ(Credit: ロケットの色々な過程見てみたい/東京とびもの学会)】

このレーダはデンマークの企業に発注した輸入品で、JAXAの仕様に合わせるために、メーカー製造時および日本到着後に改修しています。導入は2013年度で、イプシロン試験機に合わせての運用開始でした。導入以降、同様のトラブルを起こしたことはありませんでした。また、今回の打ち上げに際してのリハーサルでも正常に動作していたといます。「予備はあるのか」との質問には、「予備部品等はあるものの、完全なバックアップは用意していない」という答えでした。

 

記事/金木利憲