火星探査機「インサイト」がロボットアームのスコップを使って機体上面に砂を落とした後の様子(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 火星探査機「インサイト」がロボットアームのスコップを使って機体上面に砂を落とした後の様子(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は現地時間6月3日、火星のエリシウム平原で延長ミッションを行っている火星探査機「InSight(インサイト)」太陽電池を覆う埃の一部を取り除き、発電量を増やすことに成功したことを明らかにしました。

■スコップから砂を落として太陽電池の埃をはらう

インサイトは2組の太陽電池から電力を得て稼働していますが、2018年11月の着陸から2年半が経った現在はその表面が砂埃に覆われています。JPLによると、2021年2月時点でインサイトの太陽電池が生み出す電力は、埃に覆われていない状態と比べて約27パーセントまで低下しているといいます。

過去にNASAの火星探査車「スピリット」「オポチュニティ」が経験したように、インサイトでも突風や塵旋風(つむじ風)によって太陽電池から埃が取り除かれることが期待されていたものの、残念ながら風による掃除の効果は得られていません。インサイトの運用チームは太陽電池の表面から埃を取り除く方法をかれこれ1年ほど検討し続けており、これまでに太陽電池を展開する時に使用したモーターを小刻みに動かして埃をふるい落とす方法が試されたものの、こちらは実を結びませんでした。

2019年3月と4月に撮影された画像から作成されたインサイトのセルフィー。着陸から半年以内の時点でも左右に展開された太陽電池を覆う埃が目立つ(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 2019年3月と4月に撮影された画像から作成されたインサイトのセルフィー。着陸から半年以内の時点でも左右に展開された太陽電池を覆う埃が目立つ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

今回試されたのは、ロボットアームのスコップを使って地表からすくい取った砂を太陽電池の近くに落とす、という方法です。埃を取り除く手段としては直感に反する方法のように思えますが、落ちて跳ねた砂が風に流されて太陽電池の表面に当たり、砂粒よりも小さな埃を運び去る効果が期待されていました。

2021年5月22日、ミッション884ソル目(1ソル=火星の1太陽日、約24時間40分)の火星現地時間正午頃、インサイトの機体上面のうち片側の太陽電池の近くにスコップから砂が落とされました。風が最も強くなる時間帯に落とされた砂は秒速およそ6メートルの風に乗って期待通りの効果をもたらし、1ソルあたり約30ワットアワーの電力量が追加で得られたといいます。

現在火星は公転軌道上で太陽から最も遠ざかるポイントである遠日点に近づきつつあり、埃によって低下している太陽電池の発電量はさらに少なくなっています。ヒーターやコンピューターといった主要なシステムへの電力供給を優先してエリシウム平原の冬を乗り越えるために、インサイトは観測機器を何か月間かオフにして運用することが計画されています。

今回の試みによって得られた電力量はインサイトがミッション初日に記録した4588ワットアワーと比べて150分の1程度のわずかな量ですが、それでも観測機器の電源をオフにするタイミングを何週間か遅らせることにつながり、観測データを収集するための貴重な時間が稼げるといいます。運用チームでは6月5日にも埃を取り除くための同様の試みを再度実施する予定です。

砂を落とした際に撮影された画像から作成されたアニメーション(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 砂を落とした際に撮影された画像から作成されたアニメーション(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

ちなみに、JPLは発表において『火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」のローターが巻き起こす風を利用して太陽電池を掃除してはどうか』という一般からの提案にも触れ、そのような運用はリスクが高いことや、Ingenuityとインサイトが3452kmも離れていることに言及。また、埃を除去するためのブラシやファンといった装備も、探査機の重量や故障の原因を増やすことにつながるとしています。

 

関連:NASAの火星探査機「インサイト」が2年ぶりにM3クラスの地震を観測

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏

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