船外活動中の宇宙飛行士(Credit: ESA)

【▲ 船外活動中の宇宙飛行士(Credit: ESA)】

船外活動(宇宙遊泳)は、宇宙飛行士のキャリアの中でも大きなハイライトです。しかし、宇宙服を着るということは、過去に着用した宇宙服の下層部分を共有することになるというデメリットもあります。ESA(欧州宇宙機関)の新しい研究では、人類が月やそれよりさらに遠くの場所へ行く際に、これらのアイテムを清潔で衛生的に保つための最善の方法を検討しています。

スペースシャトル時代には、宇宙飛行士一人一人に宇宙服の正式名称である「船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit)」が支給されていました。しかし、ISSでは、船外活動するクルーに合わせてサイズの異なるパーツを組み合わせ、スーツを共有するようになりました。

船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit)の構造(Credit:JAXA/NASA)

【▲ 船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit)の構造(Credit:JAXA/NASA)】

船外活動する際、最初に着用するアイテムは(使い捨ての)「最大吸収性衣類(Maximum Absorbency Garment)」(おむつ)、次に「熱的快適性下着(Thermal Comfort Undergarment)」、そして長袖の下着のような「液体冷却・換気衣服(Liquid Cooling and Ventilation GarmentLCVG)」です。LCVGは、液体冷却チューブとガス換気装置を肌に密着させて着用することで、ハードな宇宙空間での持続的な肉体労働の際に、涼しく快適に過ごすことができます。

液体冷却・換気衣服(Liquid Cooling and Ventilation Garment: LCVG)(Credit: ESA)

【▲ 液体冷却・換気衣服(Liquid Cooling and Ventilation Garment: LCVG)(Credit: ESA)】

しかし、LCVGは宇宙服と一緒に異なる船外活動員によって再利用されています。このような再利用は、これから月周回軌道上に建設される予定の新たな国際宇宙ステーション「ゲートウェイ」に乗組員が定着すれば、さらに増えることが予想されます。

関連:NASA「ゲートウェイ」2024年に建設開始、最初の打ち上げにファルコンヘビーを選定

このような長期的な共有を念頭に置いて、ESA「微生物活動を低減するための殺菌性高度コーティング技術(Biocidal Advanced Coating Technology for Reducing Microbial ActivityBACTeRMA)」と呼ばれる新しいプロジェクトを開始しました。

ESAの材料エンジニアであるMalgorzata Holynska氏は、「宇宙飛行用の繊維製品、特に宇宙服の下着のように生物学的な汚染を受けるものは、長期間の飛行中に工学的および医学的なリスクをもたらす可能性があります」と説明しています。

「われわれはすでに宇宙服の外側の層の候補となる材料を研究しています。この初期の技術開発プロジェクトは、宇宙服の内側を含むあらゆる種類の宇宙飛行用繊維に役立つ可能性のある、細菌を殺す物質を調べているという点で、それと有益な補完関係にあります」

ISSでは、常に衛生面が問題となります。生物学的汚染を防ぐ標準的な方法は、銀や銅などの抗菌材料を使用することす。これらのイオンは、酸素や水の存在下で、微生物の正常な生理機能を妨害します。オーストリア宇宙フォーラム(Österreichisches Weltraum Forum /OeWF)のプロジェクト所属科学者であるSeda Özdemir-Fritz Bacterma氏は、「問題は、長期間使用すると皮膚が荒れたり、金属自体が時間の経過とともに変色したりすることです」と説明しています。

「代替案を提供するために、私たちはウィーン繊維研究所と協力しています。彼らは、ユニークな細菌学的コレクションの独占的な権利を有しています。これらの微生物は、いわゆる二次代謝産物を生成し、その化合物は一般的にカラフルで、中には抗菌、抗ウイルス、抗真菌などの多彩な特性を示すものもあります」

「微生物の生産物を使って微生物を取り除くというのは不思議に感じるかもしれませんが、あらゆる種類の生物は二次代謝産物を使って極限の環境条件から身を守っています。このプロジェクトでは、二次代謝産物を革新的な抗菌繊維の仕上げ剤として検討します」

さらにプロジェクトでは、抗菌性を備えた革新的な繊維仕上げ剤を開発し、そのテストを行います。加工された繊維の抗菌性をテストし、汗や放射線にさらします。また、宇宙飛行士が月や火星の表面に何度も行くと、作業環境が埃っぽくなることが予想されるため、模擬的な月面のダストも加えるとしています。

「放射線は、繊維を劣化させることが知られています。放射線テストでは、深宇宙環境での長期保管をシミュレーションします」とMalgorzata Holynska氏は付け加えています。

日本ではJAXAと企業(株式会社ゴールドウィン)とのコラボレーションにより船内用の「宇宙下着」が開発されています。株式会社ゴールドウィンによると、入浴や洗濯のできないISSに長期滞在する宇宙飛行士の「ニオイ」によるストレスの軽減ならびにパフォーマンスの維持に寄与し、船内生活の質の向上を目指すことを目的としています。現在ISSに長期滞在中の星出彰彦宇宙飛行士に着用してもらい、地球帰還後、 ISSで製品を着用しての率直な感想などを伺う予定とのことです。

 

 

Image Credit: ESAJAXA/NASA
Source: ESAJAXA星出宇宙飛行士特設サイト(Supporting Goods株式会社ゴールドウィン(プレスリリース)
文/吉田哲郎

 オススメ関連記事