コアモジュール「天和」を搭載して文昌衛星発射センターから打ち上げられた「長征5号B」(Credit: CNSA)

【▲ コアモジュール「天和」を搭載して文昌衛星発射センターから打ち上げられた「長征5号B」(Credit: CNSA)】

日本時間2021年4月29日、中国は独自の宇宙ステーション「天宮」の建設に向けてコアモジュール「天和」の打ち上げを実施しました。この打ち上げに使われたロケット「長征5号B」のコアステージ5月9日に大気圏へ再突入し、インド洋のモルディブ諸島付近に落下したことが発表されています。

中国国営の新華社通信は中国有人宇宙機関(CMSA)の発表として、長征5号Bのコアステージが日本時間5月9日11時24分に大気圏へ再突入したことを報じています。コアステージの大半は再突入時に燃え尽きたものの、燃え残った破片は北緯2.65度、東経72.47度を中心とする海域に落下したとされています。

同時刻頃にコアステージが大気圏へ再突入したことは、アメリカ宇宙軍やロシア国営宇宙企業のロスコスモスからも発表されています。ロスコスモスは落下前の5月8日16時36分に軌道上で撮影されたコアステージの画像も公開。撮影したのは2016年4月にボストチヌイ宇宙基地から打ち上げられた技術実証衛星「AIST-2D」で、撮影時の衛星からコアステージまでの距離は1281kmとされています。

【▲ ロシアの技術実証衛星「AIST-2D」が2021年5月8日に撮影した長征5号Bのコアモジュール(Credit: Roscosmos)】

■ロケット上段の落下によるリスクの低減が求められる

長征5号Bコアステージの落下を受けて、アメリカ航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン長官は5月9日に声明を発表。「宇宙飛行を実施する国は、宇宙物体(人間が宇宙に打ち上げた物体)の再突入による地上の人々や財産へのリスクを最小限に抑える取り組みを、最大限の透明性をもって行わねばなりません。中国が彼らのスペースデブリ(宇宙ゴミ)に関して責任ある基準を満たしていないことは明らかです」として、中国を非難しました。

打ち上げに使われたロケットの一部が大気圏に再突入すること自体はめずらしいことではなく、時には燃え残った破片が地上や海上に落下することもあります。今回の件が問題視されている理由のひとつは、コアステージが制御されない状態で大気圏に再突入したことにあります。

ペイロード(人工衛星などの搭載物)を宇宙へ運ぶための輸送手段であるロケットは、燃料を使い切ったブースターや第1段を切り離して身軽になりつつ加速を続けていき、ペイロードを分離した時点で残っていた上段ステージ(一般的には第2段以降)が地球を周回することになります。軌道上に残ったロケットの一部は空気抵抗によって徐々に減速し、いずれは大気圏に再突入しますが、いつどこで再突入するのかがわからない状態で放置しておくと、破片が人口密集地域に落下する可能性もあります。

▲2008年9月、太平洋上に制御落下された欧州宇宙機関(ESA)の無人補給船「ATV-1」が大気圏に再突入した時の様子▲
(Credit: ESA/NASA)

そこで、一部のロケットや国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運んだ無人補給船などでは、人口密度が希薄で人的・物的な被害が生じにくい南太平洋などへ意図的に落下させる「制御落下」が行われています。制御落下ならいつどこで大気圏に再突入するのかを選べるため、落下予想区域周辺の国々や関係機関などへ事前に通報することも可能です。

いっぽう、制御落下を行わなかった場合、ロケットの一部は飛行経路下のどこで大気圏に再突入してもおかしくありません。今回の長征5号Bコアステージは軌道傾斜角(赤道に対する軌道の傾き)が約41.5度の軌道を周回していたため、赤道をはさんで北緯41.5度~南緯41.5度の範囲であれば、どこでも再突入する可能性がありました。

▲5月7日時点での長征5号Bコアステージ落下予想区域(黄色)を伝えるロスコスモスのロゴージンCEOのツイート▲

また、長征5号Bのコアステージについては、全長33.2m、重量約18トンという大きさも注目を集めました。長征5号Bは1基のコアステージと4基のブースターから構成されています。ブースターは途中で切り離されますが、他のロケットでは第1段にあたるコアステージがそのままペイロードを軌道に投入することから、打ち上げ後に大気圏へ再突入する部分もそれだけ大きくなります。

1年前の2020年5月に中国の次世代宇宙船試験機の打ち上げに使われた長征5号Bの場合、コアステージが大西洋上で大気圏へ再突入したことが確認された直後のタイミングで、アフリカ西部のコートジボワールに複数の破片が落下しています。今回と2020年5月に落下した長征5号Bのコアステージについて、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者Jonathan McDowell氏は、制御されずに落下した人工物としては史上4番目の質量があった(※)としています。

関連:長征5号Bのコアステージは大西洋上で再突入、破片が地上に落下した可能性

※…McDowell氏は再突入時点でのコアステージの質量を21.2トンとしている

ただ、比較的小さなステージであっても、再突入後にその一部が地上へ到達することがあります。2021年3月26日にはスペースXのロケット「ファルコン9」の第2段(22日前の3月4日にスターリンク衛星の打ち上げで使われたもの)が太平洋上で大気圏に再突入し、燃え尽きなかったヘリウム用のタンクがワシントン州の農場に落下。タンクが落下した場所の地面には深さ10cm程度のへこみが生じたとされています。

▲ワシントン州で回収されたヘリウムタンクについての地元保安官事務所のツイート▲

数千~数万基の人工衛星で構築される衛星コンステレーションに象徴されるように、近年では人工衛星の打ち上げ需要が高まっています。需要増加を見越したロケット発射場の整備も国内外で進められており、打ち上げられるロケットそのものの数がさらに増えていくことは間違いありません。

スペースXが開発中の「スターシップ」のような完全再使用型の宇宙船を用いない限り、打ち上げ時にロケットの一部が地上や海上に落下したり、ペイロードの分離後に大気圏へ再突入したりすることは避けられません。NASAのネルソン長官が語るように、リスクを最小化するための責任ある対策が、中国だけでなく世界各国の宇宙機関や民間宇宙企業に対して、今後よりいっそう求められていくことになるはずです。

 

関連:中国のロケット「長征5号B」コアステージ間もなく落下の見込み、独自の宇宙ステーション建設に使用

Image Credit: Roscosmos
Source: 新華社通信 / アメリカ宇宙軍 / ロスコスモス / NASA / Aerospace / The Verge
文/松村武宏

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