青く大きな地球を背に気持ちよさそうに宇宙遊泳(船外活動)を楽しむ宇宙飛行士。SF映画のシーンを彷彿とさせる画像ですが、これは2006年にISSから撮影された実際の写真です。しかし、宇宙服の中には誰も入っていません!
実はこの宇宙服は、ISSで不用となったロシアのオーラン宇宙服(Orlan spacesuit)に無線送信機、3つのバッテリ、内部センサが取り付けられた「宇宙服衛星」なのです。不用な宇宙服を有用な衛星に変えることができるかもしれないというアイデアでした。
「Suitsat-1」と名付けられた宇宙服衛星は2006年2月3日、第12次長期滞在クルーの手によってISSから地球の周回軌道上に放出されました。ところがSuitsat-1は地球を2周した後、予想外に電波が弱くなってしまったといいます。
しかし、送信が停止するまでの間、録音されていた6ヶ国語の挨拶を世界中のアマチュア無線家に送信しました。送信の停止はバッテリが宇宙の低温環境のために故障したのが原因ではないかと考えられています。
その後も90分の周期で軌道を回り続けましたが、数週間後、大気圏に突入し燃え尽きました。
建設開始からすでに20年以上が経ったISSの歴史の中で、宇宙服衛星の存在はあまり知られていないかもしれませんが、少し微笑ましさも感じさせる貴重なエピソードのように思います。
Image Credit: ISS Expedition 12 Crew, NASA
Source: APOD、NASA、JAXA
文/吉田哲郎