JAXAは、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプル分析の現状と今後の計画について、記者説明会を行いました。

現在は帰還から6ヶ月以内に必要最低限の情報(サンプルの重量、色、大きさ、形など)を記録してカタログ化する「フェーズ1」の段階です。今後は2021年6月をめどに次段階に進み、3つの作業が同時に走り始めます。

3つの作業のうちわけは、個々のサンプル粒子についての記載を行う「キュレーション作業」、特異な粒子についてより詳細なカタログデータを作る「フェーズ2」、実際にサンプルを用いた研究である「初期分析」です。

全体スケジュール。今回は2021年6月以降の予定のうち、キュレーション・フェーズ2・初期分析について解説する。(Credit: JAXA)

全体スケジュール。今回は2021年6月以降の予定のうち、キュレーション・フェーズ2・初期分析について解説する。(Credit: JAXA)

キュレーション作業とは

フェーズ2・初期分析・JAXA枠のいずれにも回らなかった資料を対象に、より詳しい記載をします。また、必要に応じてサンプルの取り扱いや分析技術についての開発も行います。JAXAが単独で行うのではなく、岡山大学惑星物質研究所、海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の協力を得て行うことになっています。

フェーズ2とは

サンプル全体の質量のうち10%を用いて、詳細なカタログデータを作ります。無作為に分けるのではなく、他と何かしら違った特徴がある粒子を選んで記載を行います。10%全てをこのフェーズで使い切るのではなく、余ったものは返却されます。また、調べたものの中でより詳細に分析する価値があるものは、将来に向け保管されたり、初期分析に回ったり、あるいは更に後に行われる公募研究に回されたりすることになっています。

初期分析とは

1年間の期限を切って、さまざまな手法を用いて色々な視点からサンプルを分析し、リュウグウの物質の全体的な特徴を明らかにする段階です。東京大学の橘省吾教授に率いられ、6つのチームからなっていますので、それぞれの研究対象と手法、そして目的を簡単に紹介します。

小惑星リュウグウは、一度形成された惑星が砕けて再度集まったものと考えられている。その成り立ちを知ることは太陽系の歴史を繙くことでもある。(Image Credit:橘省吾)

小惑星リュウグウは、一度形成された惑星が砕けて再度集まったものと考えられている。その成り立ちを知ることは太陽系の歴史を繙くことでもある。(Credit: 橘省吾)

石の物質分析チーム

東北大学の中村智樹准教授がとりまとめます。1mm以上のサンプルを対象に、含水鉱物に着目して、それがリュウグウ表面にどのように分布しているのかを突き止めることを目的にしています。日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)やSPring-8、アメリカのAPS、フランス、ドイツの施設など、世界中の放射光研究施設を用いて三次元の内部構造や元素分布、物質としての特性分析を行い、また、電子顕微鏡を用いて微細な素子句の観察を行います。

砂の物質分析チーム

九州大学・京都大学の野口高明教授がとりまとめます。0.1mm以下のサンプルを対象に、C型小惑星における宇宙風化の研究を主に行います。走査透過型電子顕微鏡を用い、可能な限り大気に試料を触れさせないように分析を行います。

砂の分析チームが使うグローブボックス。純窒素を満たし、大気に直接サンプルが触れないようにする。(Credit: 野口高明(京都大学/九州大学))

砂の分析チームが使うグローブボックス。純窒素を満たし、大気に直接サンプルが触れないようにする。(Image Credit: 野口高明(京都大学/九州大学))

石と砂の違い
石と砂はともにリュウグウの表面物質ですが、石はある程度の大きさがあるので結晶構造がわかり、砂は細かいので結晶の具体的な組成や成分が分かります。これは完成したパズルと、個々のピースの状態のパズルを比べるようなもので、両方が組み合わされば、より全体像に迫ることができます。
また、砂の中にはサンプル採取時や地球での輸送時に石が砕けたものではなく、もとから砂としてリュウグウ表面にあったものが含まれており、その表面を詳細に観察することで宇宙風化の様子を明らかにすることができます。
石と砂の間には0.1mm以上1mm以下のサンプルがあるのですが、これはその場の判断で石か砂かどちらか適切と判断した方で扱うことになっています。サンプラーの構造上、1mmの粒子はA~Cの各サンプル格納室の間で混ざらないことが分かっており、0.1mmのものは混ざる可能性があるのがその理由です。このサイズのものは採取地点が明確に特定できないので、表面物質か地下の物質かはわかりません。ですから場所が分からずとも研究できる、宇宙風化や小惑星の平均的な物質や組成を見るのに使うことになっています。

揮発性成分分析チーム

九州大学の岡崎隆司准教授がとりまとめます。
ガスなど揮発性に富む物質の分析を行います。その性質上、大気に晒すと地球の物質と見分けがつかなくなってしまうので、地球大気からは隔離した状態で取り扱います。低温から加熱して出てきたガスの成分を分析することで、どの温度からどのようなガスが出始めるのかがわかります。逆に見ればある温度以下で揮発する成分は出てこないので、宇宙空間でどのくらいの温度に晒されたかというのをかなり正確に知ることができます。また、地上に降ってくる隕石ではガスは抜けてしまっていますから、そことの比較も行うことで、よりC型小惑星と炭素質隕石との関係が明らかになります。

固体有機物分析チーム

広島大学の薮田ひかる教授がとりまとめます。
分子の形が決定できず、化合物としての名前が与えられない、そして水やアルコールなどに溶けない有機物を分析します。目的は初期太陽系で生命の材料となる物質がどのように形成されたかを明らかにすることにあります。様々な顕微分光法(赤外、ラマン、放射光軟X線)、電子顕微鏡、同位体顕微鏡での観察結果を併せて、リュウグウの分子、同位体の組成および形態、さらにその分布を明らかにしていきます。

可溶性有機物分析チーム

九州大学の奈良岡浩教授がとりまとめます。分子構造が決定できる有機物を対象に、どのような有機化合物が含まれているのか明らかにしていきます。サンプルを砕いて水やアルコールで抽出し、溶け込んでいる分子の構造や数を明らかにしていくのが研究内容です。対象とする有機物はアミノ酸や核酸塩基などが代表となります。分析には質量分析やクロマトグラフィーを用います。

今後の研究に期待

リュウグウのサンプルを様々な手法で分析すること、それを地上に降ってきた炭素質隕石と比べることで、共通する点、異なる点が明らかになります。初期分析自体も惑星科学に大きな成果をもたらすことが期待できますし、この成果を土台に更に多くの研究がなされることによって、生命を形作る有機物の起源や太陽系初期の姿の一端が解明されていくことが究極の目標となっています。世界で初めてのC型小惑星のサンプルを用いた研究の準備が、着々と進められています。

 

 

Image Credit:JAXA, 橘省吾
文/金木利憲(東京とびもの学会)

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