アメリカ航空宇宙局(NASA)は3月5日(現地時間、以下同様)、2021年2月に火星へ着陸した探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」が初走行時に撮影した画像を公開しました。
■アルミ製ホイールの走行痕と着陸時に露出した地面を捉える
こちらが今回公開された画像です。Perseveranceのマスト(“頭”とも表現される)に取り付けられている複数のカメラのうち、ナビゲーション用のカメラ「NavCam」によって3月4日に撮影されたものです。
この日、Perseveranceは火星で最初の走行を試みました。探査車を運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)によると、Perseveranceはまず着陸地点から4メートル前進。続いてその場で左に150度転回し、最後に2.5メートル後進しました。画像には移動後のPerseveranceから撮影された着陸地点周辺の様子が写っています
地面を見ると、Perseveranceに装着されているアルミニウム製のホイールによって転回時に刻まれた円を描くような痕や、そこから奥に伸びていく前進時の走行痕が捉えられています。今回はテストということもあって総距離6.5メートル、約33分の走行に留まりましたが、探査が始まるとPerseveranceは1日あたり最大200メートル(あるいはそれ以上)を移動する計画です。
また、前進時についたまっすぐな走行痕の左右を見ると、地面が明るい色合いになっていることもわかります。これはPerseveranceの着陸時にロケットエンジンの噴射によって地表を覆う暗い色合いの砂や塵が吹き飛ばされたためで、JPLによるとエンジン噴射のダイナミクスをより良く理解する上でPerseveranceの撮影した画像が助けになるといいます。
今回の走行はPerseveranceによる本格的な探査活動の開始に先立つ各種チェックの一環として実施されました。現在は着陸からおよそ30ソル(※)が見込まれている試運転の期間中で、12ソル目にあたる3月2日からはPerseveranceのロボットアームが稼働し始めています。
※…1ソル=火星での1太陽日、約24時間40分
JPLによるとこのほかにも地中レーダー「RIMFAX」や大気中の二酸化炭素から酸素を生成する「MOXIE」のチェック、環境観測装置「MEDA」の風向風速センサーの展開などが完了しており、今後は科学機器のより細かなチェックと較正、さらに長い距離の走行試験、サンプルを保管するシステムの一部や小型ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」を保護するカバーの投棄などが予定されています。
■着陸地点はSF作家のオクテイヴィア・E・バトラー氏にちなんで命名
また、2006年に亡くなったSF作家のオクテイヴィア・E・バトラー氏にちなみ、Perseverance運用チームの科学者らによって着陸地点が「Octavia E. Butler Landing(オクテイヴィア・E・バトラー着陸点)」と命名されたことが明らかにされました。JPLの所在地でもあるカリフォルニア州パサデナ出身のアフリカ系アメリカ人だったバトラー氏は、女性SF作家として初めてヒューゴー賞とネビュラ賞をどちらも受賞し、天才助成金とも呼ばれるマッカーサー財団の「マッカーサー・フェロー」をSF作家として初めて授与された人物です。
なお、NASAの火星探査機・探査車の着陸地点は過去にも人名などにちなんで命名されたことがあります。たとえば2012年8月に着陸した火星探査車「キュリオシティ」の着陸地点は、着陸の2か月前に亡くなった作家のレイ・ブラッドベリ氏にちなんで「Bradbury Landing(ブラッドベリ着陸点)」と命名されています。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏