欧州宇宙機関(ESA)は1月28日、ドイツ人工知能研究センター(DFKI)とともに「ESA_Lab@DFKI」を創設し、宇宙開発分野での人工知能(以下、AI)研究を共同で行うと発表しました。ESAによると、大量の「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」に衝突することなく人工衛星を安全に運行させるためにはAIで自動化する必要があるといいます。
ソビエト連邦(以下、ソ連)が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたのは1957年10月4日。地球の周回軌道という貴重な資源の価値に気づいた米国、欧州諸国、日本などの各国は、その後も次々と人工衛星を打ち上げてきました。現在では米国航空宇宙局(NASA)が運用するハッブル宇宙望遠鏡や国際宇宙ステーション(ISS)、日本の気象衛星「ひまわり」8号・9号など数多くの人工衛星が地球の周回軌道で運用されています。
その一方で、地球の周回軌道上には役目を終えた人工衛星やロケットの一部が「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」として廃棄されたままです。スペースデブリと衝突すれば大きな被害を受ける可能性があるため、人工衛星や宇宙船は軌道を変更して衝突を避ける必要があります。こうした衝突回避マヌーバが最初に実行されたのは1991年9月のこと。ソ連が1970年代後半に打ち上げた人工衛星「コスモス955」との衝突を避けるために、NASAのスペースシャトル「ディスカバリー」は姿勢制御システム(RCS)を7秒間噴射して軌道を変更しなければなりませんでした。
衝突回避マヌーバの実施回数はスペースデブリの増加とともに増えています。ESAによると、稼働中の人工衛星に危害を及ぼしうるスペースデブリの数は2021年1月時点で28,210に及び、ESAが運用する人工衛星だけでも毎年20回程の衝突回避ミッションが必要だといいます。
こうした背景のもとで、ESAはスペースデブリとの衝突回避をAIで自動化する計画を創案しました。DFKIのAndreas Dengel氏は、AIは人間の身体能力や認知能力を超えて衝突回避のための操縦を可能にするだろうと述べています。ESAとDFKIはすでに、宇宙ロボットや自動操縦システムの分野で数々の成功実績を積んでいるといいます。
調査会社のガートナーは「ハイプサイクル」と呼ばれる革新的技術やトレンドへの期待度を示すグラフを発表しており、2020年の発表によると人工知能(AI)は幻滅期に突入したと位置づけられています(下図参照)。ESAが今回研究・開発する人工衛星の自動操縦システムが実現すれば、AIが幻滅期の谷底を脱して普及期に入ったことを予感させる象徴的な存在になるやもしれません。
Image Credit: ESA
Source: ESA, DFKI
文/Misato Kadono