火星探査機インサイトの地中センサー、押し戻されたりもしたけど地下に向け前進再開

火星のエリシウム平原で観測を続けているNASAの火星探査機「インサイト」。地下5mで熱の測定を目指す熱流量計「HP3」は地中センサーがうまく掘り進められないトラブルに見舞われていましたが、掘削開始から1年3か月、ついにセンサーのほぼ全体を地中へと潜り込ませることに成功しました。

■ロボットアームで「モール」の後端を押さえつつ、約3か月かけて少しずつ前進

2020年6月3日、ミッション開始から540ソル目(1ソル=火星の1日)にインサイトが撮影した画像。ケーブルの先端にあるモールの後端を押さえているロボットアームのスコップが、火星の地表に触れているのがわかる(Credit: NASA/JPL-Caltech)

2018年11月に着陸したインサイトには、ロボットアームを使って地面に設置する2つの観測装置が搭載されています。そのうちの1つである地震計「SEIS」は、2019年4月6日火震(火星で起こる地震)を検出することに成功しています。いっぽう、HP3による地下5mを目指した掘削は2019年2月28日に始まったものの、着陸地点の地下には予想よりも固く締まったセメントのような層が存在するとみられており、通称「the mole(モール、もぐらの意)」と呼ばれる地中センサーは思ったように前進できずにいました。

モールには掘削用のハンマーが内蔵されていますが、ハンマーが作動したことによる反動でモールが一瞬浮き上がって穴の底にすき間が生じ、そこに崩れた土が入り込んで穴を少しずつ埋めてしまったことで、2019年10月にはモールが全長の半分ほど地上に押し戻されるという事態が起きています。その後、インサイトの運用チームはロボットアームに装備されているスコップでモールの後端を押さえつけながら前進させる方法を考案し、エンジニアリングモデルでのテストを経て今年の3月11日から作業を開始しました。

モールが前進するのにあわせてロボットアームの位置も少しずつ下げていかなければなりませんが、観測機器の設置が行われた昨年初頭よりも少ないスタッフでやりくりする必要があることから、作業は隔週のペースでゆっくりと慎重に進められました。そして作業開始から3か月近くが経った5月30日、ついにロボットアームのスコップが地表に触れるところまで掘り進めることに成功しています。

▲前進再開を伝えたインサイトの公式Twitterアカウントによるツイート▲

HP3を開発したドイツ航空宇宙センター(DLR)のブログによると、今後はモールが単独で穴を掘り進めていけるかどうかを確認する手順が控えています。穴が深くなるにつれて摩擦が強まりハンマーの反動を押さえ込めるようになるため、モールの後端が地下20cmよりも深いところまで進めば単独で前進できるようになるとみられています。

ただし、それまでは穴の上からロボットアームを押し当てることで土に圧力を加え、モールの前進を補助することも検討されています。モールが予定の深さに到達し、火星地下の熱流量が測定されることで、「火星の核(コア)は固体か、それとも液体か」という謎の解明につながる手がかりが得られると期待されています。

火星探査機インサイトを描いた想像図。手前の地面に置かれている装置のうち左が地震計「SEIS」、右が熱流量計「HP3」(Credit: NASA/JPL-Caltech)

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: DLR

文/松村武宏