月面の有人探査はNASAの「アルテミス計画」によって2024年にも再開される予定ですが、将来に渡り月面有人探査を継続していくための拠点として、宇宙飛行士の長期滞在を可能とする月面基地の研究が進められています。この月面基地の建設において、宇宙飛行士の「尿」(おしっこ)が重要な役割を果たすことになるかもしれません。

■尿に含まれる尿素をジオポリマーの可塑剤に利用

3Dプリント技術を用いて建設された月面基地を描いた想像図(Credit: ESA/Foster + Partners)

Shima Pilehvar氏(エストフォル・ユニバーシティ・カレッジ、ノルウェー)やMarlies Arnhof氏(ESA:欧州宇宙機関)らの研究チームは、レゴリス(月の砂)をもとに生産するジオポリマー(コンクリートに似た建築材料)の可塑剤として尿素を利用する方法を研究しています。Arnhof氏は「安価な尿素は月面基地の建築材料を強化するうえで役立ちます」と語ります。

研究チームによると、地球で採取されたレゴリスの模擬物質をもとに、可塑剤として尿素を加えたジオポリマーのサンプルを作成したところ、他の素材を可塑剤として利用する場合よりも効果が大きく、簡単に造形することができたといいます。月面基地の建設では3Dプリント技術を用いて建築材料を成形する方法が検討されているため、造形のしやすさは重要な利点です。

また、尿素を加えたジオポリマーは早い段階から強い荷重に耐えることも実験で確認されており、フレッシュなジオポリマーの上に10倍重いウェイトを載せた場合でも、ジオポリマーの形状が保たれたとしています。さらに、月面の温度環境を模した実験では、尿素を加えたジオポリマーが摂氏114度~マイナス80度の温度範囲に耐えたといいます。

尿素を添加して作られたジオポリマーのサンプル。複雑な形状でも安定して積み重ねることが可能(Credit: ESA–S. Pilehvar)

ジオポリマーの可塑剤として良好な特性を発揮する尿素ですが、重要なポイントのひとつとしてあげられているのが月面における入手のしやすさです。尿素は人の尿において水の次に豊富な物質であり、宇宙飛行士がいるかぎり月面でも手に入ります。Arnhof氏は「水再生システムの複雑化も避けられますし、宇宙飛行士の尿をなるべくそのまま利用できればいいですね」とコメントしています。

地球から月面に物資を運ぶには多額のコストが掛かります。そのため、月面基地の建設ではなるべく月にあるものを利用する「その場資源利用(ISRU:In-Situ Resource Utilization)」技術が活用される見通しで、レゴリスからジオポリマーを製造するのもISRUの一環です。月面環境での3Dプリンティングは地球よりもずっと困難とみられることや、ジオポリマーによる放射線防護能力などを評価する必要性にも研究チームは言及していますが、もしも可塑剤として尿素を添加したジオポリマーが採用されれば、将来の月面基地建設では宇宙飛行士の尿を利用することが当たり前になるのかもしれません。

実験に用いられているレゴリスの模擬物質。ドイツのアイフェル地方で約4500万年前に噴火した火山の噴出物が使われている(Credit: ESA)

 

関連:できるだけ現地調達。持続的な有人探査を支えるために月面の「レゴリス」を活用

Image Credit: ESA
Source: ESA
文/松村武宏

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