2024年の有人月面探査では「ゲートウェイ」が使われないかもしれない

NASAが進めている「アルテミス」計画では、1972年の「アポロ17号」以来となる有人月面探査ミッション「アルテミス3」の実施が2024年に予定されています。宇宙飛行士は月を周回する軌道に建設される月周回有人拠点(ゲートウェイ)で着陸船に乗り換えることが計画されているのですが、アルテミス3ではゲートウェイが使われない可能性が報じられています。

■2024年の有人着陸実施を遅らせかねないリスクの回避

月周回有人拠点「ゲートウェイ」(左)に接近する「オリオン」宇宙船(右)を描いた想像図。ゲートウェイには組み立て済みの着陸船もドッキングしている(Credit: NASA)

SpaceNews.comなどによると、3月13日に開かれたNASA諮問委員会(NAC)の科学委員会において、NASAの有人探査運用局長Douglas Loverro氏が、ゲートウェイを使用せずにアルテミス3を実施する考えであることを述べています。その理由としてLoverro氏は、2024年という期限が定められているアルテミス3のスケジュール通りの実施に対するリスクをあげています。

アルテミス計画に使われる新型宇宙船「オリオン」、オリオンを打ち上げる「SLS(スペース・ローンチ・システム)」、宇宙飛行士を月面に送る有人月着陸船、そして月周回軌道の拠点となるゲートウェイといったハードウェアはその多くが開発中であり、いずれかの開発が難航すると計画全体に遅れをもたらす可能性があります。

特にLoverro氏はゲートウェイを構成するモジュールのひとつ「PPE(Power and Propulsion Element)」に言及しています。これまでのスケジュールに従えば、ゲートウェイの推進と電力供給を担うPPEはアルテミス3に先立って月周回軌道に投入される予定ですが、Loverro氏は高出力の電気推進エンジンを採用するPPEの開発・製造は遅延する可能性が高いと判断しています。

ただし、アルテミス計画からゲートウェイそのものが除外されるわけではなく、あくまでも2024年のアルテミス3ミッションに間に合わせる必要はないという判断です。Loverro氏も持続的な月面有人探査にはゲートウェイが欠かせないと強調しており、もともと2028年が予定されていた有人月面探査再開が4年前倒しされたことによるタイトなスケジュールから、ゲートウェイの開発と建造を解放する狙いもあるようです。

■着陸船の構成も見直される可能性

2019年にボーイングが提案した有人月着陸船を描いた想像図。上昇モジュールと下降モジュールからなる着陸船をSLSで打ち上げる(Credit: Boeing)

ゲートウェイを使わない場合、アルテミス3ではオリオンと有人月着陸船が直接ドッキングして宇宙飛行士が乗り移ることになると思われますが、Loverro氏は着陸船の構成が再検討される可能性にも言及しています。

アルテミス計画の着陸船は、宇宙飛行士が乗り込み月面からゲートウェイに戻るための「上昇モジュール」、上昇モジュールを載せて月面に着陸するための「下降モジュール」、ゲートウェイを離れて着陸に備えた軌道へ移動するための「トランスファーモジュール」、以上の3つから構成される予定です。計画ではこれら3つのモジュールを民間のロケットを使って別々に打ち上げ、ゲートウェイで1つの着陸船に組み立てることになっていますが、Loverro氏は今まで実施されたことがないこの方法も避けたいと述べています。

なお、昨年11月、組み立て式ではなく1回で打ち上げることが可能で、オリオンと直接ドッキングもできる着陸船をNASAに提案したことをボーイングが明らかにしています。もしも着陸船の組み立て式構成が見直されることになった場合、ボーイング案のように最初から完成した状態で打ち上げられる構成の着陸船が採用されることになるかもしれません。

 

Image Credit: NASA
Source: SpaceNews.com / Spaceflight Now / Boeing
文/松村武宏