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月周回有人拠点(ゲートウェイ、右)に接近するHTV-X(左)を描いた想像図(Credit: JAXA)

NASAが進めるアルテミス計画では、早ければ2024年にも有人月面探査が再開される予定です。そのさらに先、2030年代以降の国際的な有人月面探査がどのようなシステムに支えられていくのか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、将来の有人月面探査で用いられることを前提とした、ある施設建設の検討を進めています。

■レゴリスから取り出した水を電気分解して水素と酸素を生産

2月26日、月面における「その場資源利用(ISRU:In-Situ Resource Utilization)」技術の獲得を目指すJAXAから、月面に建設する「推薬生成プラント」の実現に向けた情報提供要請(RFI)が発表されました。

ここでいう推薬とは、ロケットエンジンで用いられる燃料酸化剤のこと。情報提供要請にあわせて公開された資料からは、月面に建設したプラントにおいて月の砂「レゴリス」から抽出したを電気分解し、月着陸船で使用する水素(燃料)酸素(酸化剤)の生産体制構築をJAXAが検討していることがわかります。

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資料によると、推薬生成プラントは水の氷の存在が期待される月の南極域2030年~2034年の5年間をかけて建設され、2035年~2044年の10年間に渡り運用することが想定されています。検討中の計画なので期間が変わる可能性もありますし、そもそも実施に移されるかどうかも未定ですが、想定通りに進められた場合、15年後にはこのプラントが稼働し始めることになります。

■プラントを拠点に月面の広い範囲を有人探査

推薬生成プラントがどのように運用されるのかも示されています。資料によると、最初にプラントを構築する資材とともに、使い捨てではない再使用型の着陸船が無人のまま月の南極域に送り込まれます。推薬の生産を始めたプラントは、無人の着陸船に水素と酸素を補充。その後、十分な燃料が積み込まれた着陸船は月面から離陸し、月周回有人拠点(ゲートウェイ)へと向かいます。

有人探査を行う宇宙飛行士は、まずゲートウェイに向かいます。着陸船に乗り換えた宇宙飛行士は、南極域の推薬生成プラントに着陸。宇宙飛行士が月面で探査活動を行うのと同時に、着陸船には再び推薬が積み込まれます。探査を終えた宇宙飛行士は推薬の補充を終えた着陸船でゲートウェイへと戻り、地球に帰還。あとはこの繰り返しとなります。

また、ゲートウェイと月面のあいだを往復する着陸船とは別に、月面を移動する「ホッパー」の使用も想定されています。ホッパーはロケットエンジンを搭載していますが、月を周回する軌道には乗らず、上昇したあとで離れた地表に着陸するサブオービタル飛行を行います。片道1000kmを往復することが想定されており、ホッパーを併用することでプラントが建設される南極域周辺だけでなく、より緯度が低い地域を含めた広範囲を探査することが可能となります。推薬生成プラントを拠点とした有人月面探査を地球の南極観測に置き換えてみると、着陸船は南極観測船、推薬生成プラントは昭和基地のような観測拠点、ホッパーは観測拠点と観測地点のあいだを移動するための航空機のような存在と言えるでしょう。

ただし、その都度着陸船を送り込む使い捨て前提の探査とは違い、この方法ではまず推薬生成プラントを建設するための資材を月面に送り込まなければなりません。資料では有人探査の回数が7回以上になると、使い捨てよりも月面で推薬を生産するほうが送り込む物資の量が少なくて済む、つまり探査を実施するためのコストを減らすことができると試算されています。

月面でのその場資源利用については、欧州宇宙機関(ESA)でもレゴリスを建材酸素の供給源として利用する方法が研究されています。JAXAが検討する推薬生成プラントは実現するとしても10年以上先のことではありますが、有人探査が持続的な体制に移る頃の月面では、いろいろな工場が稼働する光景が見られるかもしれません。

 

関連:月面の砂「レゴリス」から酸素を取り出す技術、ESAが研究中

Image Credit: JAXA
Source: JAXA
文/松村武宏

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