NASAの火星探査機「インサイト」を描いた想像図。手前の地面に置かれている装置のうち左が地震計「SEIS」、右が熱流量計「HP3」(Credit: NASA/JPL-Caltech)

2018年11月に火星のエリシウム平原へ着陸したNASAの火星探査機「インサイト」は、火星の内部を調べることを目的とした探査機です。昨年2019年4月には火星で初めて地震波を捉えることに成功したいっぽうで、地中の温度を測定するためのセンサーはなかなか地下へと掘り進めることができずにいます。そんなインサイトの現状とこれまでの成果がNASAなどから相次いで発表されています。

■キャッチした地震波は450回以上、最大の地震はマグニチュード4.0

インサイトではロボットアームを使って観測機器の一部を探査機から降ろしてセッティングする方法が採用されており、地震計「SEIS」もインサイトのすぐ近くの地面に設置されています。SEISが火星における地震波を初めてキャッチしたのは2019年4月6日のこと。その後は2019年末までに1日あたり2回のペースで地震波が捉えられていることから、着陸からおよそ5か月間はたまたま地震が少ない静かな時期だったようです。

現在火星で稼働している地震計はインサイトのSEISただひとつですが、地震波の伝播モデルを用いた分析によって、2つの地震についてはインサイトの着陸地点から東に1700kmほど離れたところにあるケルベロス地溝帯の周辺が震源地と判明しています。ケルベロス地溝帯は今から1000万年~1億年前に形成されたとみられており、その一部は高さ500m以上の切り立った崖になっています。

なお、SEISが捉えた地震の規模はこれまでのところマグニチュード4.0が最大ですが、研究者はより大きな地震が検出される可能性にも期待しています。

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火星のケルベロス地溝帯の想像図。欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データをもとに作成(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)

■地上に戻ってしまったセンサーの再掘削には苦戦中

いっぽう、火星の地下における熱を測定するための熱流量計「HP3」については、昨年2019年10月にHP3の地中センサー部分、通称「モール(もぐら)」が押し戻されてしまって以降、なかなか掘削を再開できずにいます。当初の予定では地下5mで測定を行うはずでしたが、現在までのところ掘り進められた深さは最大で38cmに留まります。

HP3では砂がゆるく堆積したような場所を掘削していくことが想定されていたものの、インサイトが着陸した場所の地下には予想よりも固く締まったセメントのような層が存在するとみられています。そのため、内蔵されている掘削用のハンマーが作動するたびにモールが一瞬浮き上がり、その隙間に土が入り込むことで穴が少しずつ埋め戻されていき、結果としてモールが押し出されてしまったと考えられています。

現在NASAではロボットアームでモールを後ろから押さえつつハンマーを作動させることで、地下に向けた前進を再開できないか検討しています。モールの後端には観測データをインサイトに伝送するための薄いケーブルが取り付けられていて、押さえる位置によってはケーブルが損傷する可能性があります。そのため、これまでモールを後ろから押すことは避けられていましたが、NASAでは2月下旬から3月上旬にかけてモールを後ろから押しながらの掘削を試験的に実施する予定です。

関連:火星の穴掘りにまさかの事態。探査機インサイトのセンサーが地中から押し戻される

一進一退が続く地中センサー「モール」の現状。写真のようにロボットアームでモールの後端を押さえながらの掘削再開が予定されている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

■火星のコアは固体か、液体か?

また、火星の核(コア)が固体と液体どちらの状態にあるのかを解き明かすことも、インサイトの目的のひとつです。インサイトには自身の位置の変動を毎日数インチ(10cm前後)の精度で測定するために、通信装置を応用した観測装置「RISE」が搭載されています。研究者はRISEの観測データから火星がぐらつく様子を長期間かけて測定することで、コアの状態を捉えようとしています(コアが液体の場合よりも固体だった場合のほうが、火星のぐらつきは少なくなるとされています)。

インサイトが火星に着陸してから地球では1年以上が経ちましたが、研究者は火星の「1年」(地球の2年弱に相当)を通した観測データを得ることで、その答えに近づけると考えています。地震、地下の熱流、そして火星のぐらつきから内部を探るインサイトによる今後の成果にも注目です。

 

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA(1) / NASA(2) / DLR
文/松村武宏

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