人工衛星を使った天体観測は地球の天候や大気の影響を受けることがなく、これまで様々な成果を上げていますが、多大なコストがかかるのも事実です。そこで人工衛星ではなく気球を使い、比較的低コストでハッブル宇宙望遠鏡クラスの科学成果を上げようとする試みがNASAで行われています。

この試みは気球に搭載した極低温望遠鏡の実証基盤(Balloon-borne Cryogenic Telescope Testbed = BOBCAT)を構築し、遠赤外線の観測に使おうというものです。これが実用化されれば、宇宙の形成や進化の研究が大きく進歩する可能性があります。

宇宙からやってくる赤外線は地球大気でその多くが吸収されてしまい、地上からの観測は容易ではありません。宇宙望遠鏡を打ち上げるのがベストですが、気球でも「地球大気の最上部に行くことができ、宇宙で観測・検出するのと近い状態が得られる」とNASAの科学者Kogut氏は述べています。ただし遠赤外線を観測するには、「熱」というもう1つの壁を乗り越える必要があります。望遠鏡の温度が高いと自分自身が赤外線を発してしまい、観測の妨げになります。さらに今回の場合は地球大気から発せられる赤外線も存在しています。そのため、望遠鏡を約マイナス263度まで冷やしておく必要があるのです。

このような極低温に冷やすには液体窒素や液体ヘリウムを観測機器に付随する断熱容器(デュワーと呼びます)に入れて使用しますが、目指しているハッブル宇宙望遠鏡クラスが持つ大きな鏡を冷やすにはまず地上で破損しないようにデュワーを厚くしなければならず、結果として約5トンもの重量になってしまいます。これでは気球が飛び立つのは困難です。Kogut氏のチームはこの課題を解決するため、気球を上げてから液体窒素・液体ヘリウムを投入するという方法をとりました。まず液体窒素と液体ヘリウムを非常に軽い容器に入れて気球を上げ、目的の高度に達する少し前にデュワーに液体窒素を入れて冷やしておきます。そして目的の高度に達すると、遠隔操作で30リットルの液体ヘリウムを投入し、極低温まで冷やすのです。こうすることで、デュワーを軽量化することに成功しました。冒頭の画像はBOBCATが約40キロメートルの高度に達したときに気球から撮影したものです。

軽量のデュワーは改良を重ね、今年中にもう一度テストが行われる予定です。Kogut氏によると、デュワーのステンレスの壁の厚さはビールの缶よりわずかに厚い程度とのことです。この実験はNASAのゴダード宇宙飛行センターの支援を受けて行われたものですが、ゴダードの技術者たちは大きな望遠鏡を収容できるだけのデュワーを作る設備を持っていません。そのため、NASAは「スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ」という助成金を米コロラド州に拠点を置く「Quest Thermal Group LLC」に支給しました。Quest Thermal Group LLCは断熱システムの構築を得意とする企業で、大きなデュワーを開発することがこれからの仕事となります。

気球は低コストであると同時に短い期間で打ち上げることができます。宇宙望遠鏡の場合は10年単位のプロジェクトとなり、他のプロジェクトとの優先順位により希望通りの開発・打ち上げスケジュールにならないこともありますが、気球はそれに比べると手軽な手段と言えます。企業にとってはビジネスチャンスでもあるのかもしれません。気球を使った観測の進展に期待したいです。

 

Image Credit: NASA
Source: NASA
文/北越康敬

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