8月21日、アメリカ合衆国政府へ宇宙政策に関する助言を行う国家宇宙評議会の会合が開催されました。会合の席上、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「核熱推進ロケットエンジン」の開発を成し遂げたいとの意欲を語っています。

核熱推進ロケットエンジンを搭載した宇宙船の想像図

■核熱推進ロケットエンジンは効率が良い

現在NASAでは、将来の宇宙探査で利用される技術に新たなアプローチから挑戦する「Game Changing Development」プログラムにおいて、2017年8月から「核熱推進(Nuclear Thermal Propulsion:NTP)」を利用したロケットエンジンを研究しています。

NTPは「原子炉の熱で温められた推進剤(水素など)」を噴射するシステムです。研究の歴史は東西冷戦時代に遡り、NASAでは1961年から「NERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)」プログラムのもとで開発を行っていましたが、政治上の理由などから1972年に中止されています。

NERVAプログラムで研究・開発された核熱推進ロケットエンジンのイラスト

宇宙開発における原子力というと、火星探査車「キュリオシティ」でも採用されている発電装置「放射性同位体熱電気転換器(RTG)」が挙げられます。RTGは放射性物質が崩壊する時に発する熱から電気を得るための装置で、2026年の打ち上げを目指す土星の衛星タイタンの探査ドローン「ドラゴンフライ」への採用も決定しています。

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いっぽう、NTPは電力ではなく推進力を得るためのシステムです。ロケットエンジンとして使用した場合、液体水素やケロシン(灯油)を液体酸素で燃焼させたり、混ぜただけで反応する2種類の液体を使ったりする化学燃料ロケットエンジンよりも効率(比推力)が良いという特徴があります。

2017年にNASAがアメリカの原子力関連企業BWXT Nuclear Energyとの協定を発表した際のリリースによると、核熱推進ロケットエンジンの効率はスペースシャトルのメインエンジン(SSME、液体水素と液体酸素を使用)の2倍に達するとされています。わかりやすく言うと、同じ目的地に行くのであれば、核熱推進ロケットエンジンのほうが2倍の物資や人員を運べることになります。

■火星への旅路に使用される日が来るか?

2017年のリリースにおいて、マーシャル宇宙飛行センターでNTPプロジェクトのマネージャーを勤めるSonny Mitchell氏が「火星やその先へ人類を送り込むための唯一実現可能な技術」と語っているように、NASAは核熱推進ロケットエンジンを有人の宇宙船に利用することを考えています。

2024年に有人月面探査が予定されている「アルテミス」計画では、宇宙飛行士は化学燃料ロケットエンジンを積んだ「オリオン」宇宙船で月へと向かいます。そのさらに先、2030年代の実現を目指す火星の有人探査では、化学燃料ロケットエンジンや小惑星探査機「はやぶさ2」にも使われている電気推進ロケットエンジンの利用も検討されています。

NASAは、核熱推進ロケットエンジンを使えば、地球と火星の間をより短い期間で飛行できるとしています。宇宙飛行士が放射線にさらされる期間がそれだけ短くなりますし、地球と火星が理想的な位置関係になくてもミッションを遂行できる柔軟性も確保できます。

魅力的な性能を持つ核熱推進ロケットエンジンですが、搭載する宇宙船そのものの建造に関する技術面や予算面での課題や、原子炉を使用することに対する安全面での懸念も残ります。エンジンの実用化には、険しく数も多いハードルを乗り越えねばなりません。

 

Image Credit: NASA
[https://www.nasa.gov/image-feature/sixth-meeting-of-the-national-space-council] [https://www.nasa.gov/directorates/spacetech/game_changing_development/Nuclear_Thermal_Propulsion_Deep_Space_Exploration] [https://gameon.nasa.gov/2017/08/03/nasa-contracts-with-bwxt-nuclear-energy-to-advance-nuclear-thermal-propulsion-technology/] [https://www.c-span.org/video/?463537-1/vice-president-pence-chairs-national-space-council-meeting] 文/松村武宏

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