被災地を宇宙から支えた「きずな」、11年の活躍を終え運用終了へ

2019年3月1日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から1機の衛星の運用終了がアナウンスされました。

その名は、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)。超高速な衛星通信を広い範囲に提供するための技術実証を目的に、11年前の2008年2月23日、種子島宇宙センターからH-IIAロケット14号機によって打ち上げられました。

「きずな」は5年という設計寿命を超えて運用が続けられ、2014年に当時としては世界初となる最大3.2Gbpsの超高速通信を実現しています。技術実証が目的の実験機と呼べる衛星でしたが、今から8年前の2011年、東北地方太平洋沖地震によって通信設備に被害を受けた岩手県の釜石市および大船渡市において、現地対策本部と岩手県庁を結ぶ通信手段や被災地からのインターネットアクセス手段として、「きずな」を用いたブロードバンド環境が活用されました。

たとえ地上の設備が一切使えない壊滅的な状況に陥っても、衛星(きずな)との通信設備さえ持ち込むことができれば、被災地の通信環境を迅速に復旧できることを本物の災害で証明した形です。

その後も「きずな」が提供する超高速通信環境を利用した防災分野での実証実験が続きます。特に、大きな被害が予想される南海トラフでの地震を念頭に、岩手県で実践されたような通信環境の復旧訓練や、日本医師会と各県の医師会を結び情報共有に役立てるための防災訓練にも活用されてきました。

また、実際に運行されているフェリー「さんふらわあ きりしま」に「きずな」との通信設備を積み込んで、航行中の船舶からブロードバンド環境を利用するための実証実験も実施されています。

私たちの日常生活に直接関わることは少なかったものの、宇宙から超高速通信環境を提供することで人々のつながりを保つための技術実証に大きな貢献を果たした「きずな」は、2019年2月9日頃から通信ができない状態となりました。通信を回復する試みが約2週間に渡り続けられてきましたが、JAXAはこれ以上の運用は不可能と判断。2月27日に送信機とバッテリーを停止するためのコマンドが送信され、ついに11年に渡る運用を終えたのです。

 

Image credit: JAXA
http://www.jaxa.jp/press/2019/03/20190301a_j.html