宇宙エレベーター、2018年に地上と宇宙で実証実験を目指す

地上2万メートルでの宇宙エレベーター実証に向けて

宇宙エレベーター協会は、地上と静止軌道とを3万6,000km以上のテザー(ケーブル)でつなぐ宇宙輸送機関「宇宙エレベーター」の実現に向け、2018年9月に米ネヴァダ州で技術競技会を行う「GSPEC」計画について中間報告を行った。地上3,000メートルの高さに係留気球(テザードバルーン)を掲揚し、国内よりも高高度での宇宙エレベーター昇降機のモデルの技術実証を目指す。

宇宙エレベーター協会では、ロボット技術者も参加して米ネヴァダ州で2017年9月に宇宙エレベーター実証の予備調査を行った。

テザーで結ばれた地上と宇宙空間を昇降機が往復することで、ロケットよりも大量の物資や人員を安定的に安価に輸送する手段を実現することが宇宙エレベーターの目的だ。宇宙エレベーター協会では、この宇宙エレベーターの地上サイドの技術開発に向け、2009年から気球で吊るしたケーブルを宇宙エレベーターに見立て、実証実験を行ってきた。

国内外を合わせて大学の工学系研究室や社会人など20チーム程度が実証実験に参加し、2013年には高度12,00mまでの昇降を実現している。だが、日本国内では法的な制限からより高高度の実証は実現できない。そこで、民間ロケットの実験なども行われる米ネヴァダ州のブラックロック砂漠へ実証の場を移し、世界の宇宙エレベーター研究者に呼びかけて昇降実験を行いたいとしている。2019年には10,000m、2020年には20,000mの昇降を実現したい考えだ。

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宇宙エレベーターを模擬した高高度バルーンの展開目標

 

すでに2016年より、IAA(国際宇宙航行連盟)の協力の元に、高高度での実証実験の予備調査を行ってきた。地上付近での風速や、月の砂(レゴリス)よりも細かいパウダー状の砂が吹き付ける砂漠の環境について知見を蓄積し、実証フィールドを実現していく考えだ。

「宇宙エレベーターチャレンジ(SPEC)」にGlobal、Gravityなどを想起させる「G」を加え、「GSPEC」と名づけられた宇宙エレベーター実証実験会では、ロボットを用いた惑星探査の基礎実証も行われる予定だ。月や火星など個体惑星にも建造可能である宇宙エレベーターの性質を活かし、上空から探査ロボットを放出して安全に着陸させるロボットの技術開発を目指す。

JSEAの大野修一会長は「宇宙エレベーターは宇宙で利用できる機械工学技術(宇宙メカトロニクス)の取り組みでもある。GSPECでは、ネヴァダ州のブラックロック砂漠でこれまで長年にわたり模擬人工衛星CanSatの打ち上げ競技会を行ってきたAERO-PACとも協力していく。高高度の係留気球からの通信技術など、実現に向けて必要な技術が多くある。宇宙を目指す環境での技術開発に挑みたい企業、研究者などに参加してほしい」と目標を述べた。

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宇宙でロボットがテザー上を移動

同日、静岡大学、日本大学、大林組による超小型衛星を使った宇宙エレベーター模擬実証衛星「STARS-Me(スターズミー)」の情報が公開された。

静岡大学を中心としたチームでは、10cm四方の超小型衛星キューブサットを利用し、宇宙エレベーターで使われるテザーの宇宙空間での展開技術や挙動の調査を行っている。2016年にはテザーの展開実験を行うための「STARS-C」と名付けられたキューブサット打ち上げも行われてきた。

2018年に打ち上げ予定のSTARS-Meは、2機のキューブサットが分離しながら14m程度の金属製ベルトテザーを繰り出して展開し、テザーに沿って小型昇降機が宇宙で移動する実証実験を行う予定だ。テザー関連技術だけでなく、小型ロボットでもある昇降機の制御や、分離して複数の衛星になるキューブサットの運用技術など、宇宙技術の蓄積を目指す。

テザー衛星の展開、運用技術は、将来はスペースデブリの除去技術などにも応用が可能だという。また、テザー上を移動する昇降機ロボットにリニア駆動方式を取り入れる目標もあり、昇降機の開発を進める日本大学 青木義男研究室では、弾道飛行による微小重力環境での昇降機試験などを進めている。

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超小型衛星による宇宙エレベーター実証衛星の搭載を目指すリニア駆動昇降機を手にする日本大学の青木義男教授。

 

宇宙エレベーター実証衛星、STARS-Meの模型。2機のキューブサットを分離させ、テザーを繰り出して昇降機を移動させる。

Image Credit : JSEA

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