日本時間8月16日午前2時40分、中国甘粛省にある酒泉衛星発射センターから、量子科学実験衛星(Quantum Experiments at Space Scale、QUESS)が長征二号丁ロケットで打ち上げられました。同衛星は地球の北極から南極方向へと周回する太陽同期軌道に投入され、同センターは打上げ、軌道投入に成功と発表しました。なお、同衛星とともに、希薄大気実験科学実験衛星とスペインの科学実験衛星も相乗りで打ち上げられました。また、長征ロケットシリーズ全体としては234回目の打上げとなります。
愛称は「墨子」 その由来は?
この量子科学実験衛星は、打ち上げ直前に「墨子」という愛称が発表されています。墨子は春秋時代の思想家で、墨子や弟子らの思想をまとめた書物『墨子』には、現代の理学や工学に通ずる記述が多数収められていることが知られています。その中には、今でいうところのピンホールカメラの仕組みについて説明した箇所など光学に関する記述があり(光学八条とも呼ばれています)、このことから量子科学実験衛星の愛称にふさわしいという事で選ばれたということです。
ちなみに、昨年12月に打ち上げられた暗黒物質探査衛星(DArk Matter Particle Explore、DAMPE)には「悟空」という愛称がつけられました。これは孫悟空が「妖怪の正体を暴く眼力を持つ」というところから採用されたものです。豊富な歴史と文化を有する中国だけあり、愛称をつけるのに元ネタがなくて困るという事はなさそうです。
宇宙でどんな実験を行うの?
「墨子」は衛星軌道上、つまり宇宙空間と地上の間で量子通信の技術実証を本格的に行う世界初の衛星です。運用は上海量子科学実験衛星管制センターが担当し、北京興隆局、新疆南山局、青海徳令哈局、雲南麗江局など5か所の地上局との間で、量子もつれ実験及び量子配送鍵実験を行う予定です。また、チベット・ガリ地区にある地上局とは量子テレポーテーション実験を予定しています。
目指すはグローバルな量子通信網構築
量子暗号通信はその特性から、現在の暗号化技術よりもはるかに高いセキュリティ性を持つということで、米国や欧州、日本で研究、実証試験が行われ、一部はすでに実用化されています。中国でも2000年代から量子もつれの研究を進めていましたが、近年では特に実用化に向けた取り組みが進んでおり、2012年から安徽省合肥市で量子通信網の試験運用、北京市で金融システム用の量子通信の実証試験を開始しています。
こうした実験を元に、北京市から山東省済南市、合肥市を経由して上海市へとつながる、全長2000キロメートルに及ぶ量子暗号通信バックボーン「京滬幹線」の建設がスタート。京滬幹線は14年に着工し、今年中に開通予定で、北京・上海間の金融システム向けに量子暗号通信を提供する計画です。
なお、中国は2020年までにアジアと欧州のネットワーク間で量子鍵配送を実現、30年頃には20機の衛星を打ち上げ、宇宙と地上で全世界をつなぐグローバル量子通信ネットワークを構築するという計画を掲げています。
Image Credit: NSSC
世界初の量子通信衛星について、開発者が動画で解説(中国語)
4つのミッションを持つ中国の量子通信衛星発射(中国語)
量子科学実験衛星(中国科学院国家空間科学中心、中国語)