宇宙航空研究開発機構(JAXA)、慶應義塾大学、京都大学などからなる研究チームは2月1日、大規模なコンピュータシミュレーションを用いて、金星の極域上空の大気に生じている特異な気温分布を世界で初めて再現し、その生成・維持メカニズムを理論的に解明することに成功したと発表した。
1970年代の世界の金星探査ミッションによって、金星の極域上空の大気で、気温が高い領域を冷たい領域が囲っているという不思議な気温分布が明らかになっていたが、どのようにしてこの気温分布が生じ、長期間維持されるのか、そのメカニズムは現在まで解明されていなかった。
研究チームは、数値シミュレーションによる研究から、金星極域に高温領域が生成されるメカニズムを明らかにした。
発表によると、まず太陽光が金星の雲層を暖めることに起因した南北方向の大気の流れが生じ、そしてこの流れは極域上空で集まり、下降流となる。気圧の高い低高度に向かう大気は圧縮される。気体は圧縮されると温度が高くなる性質があり、このために下降流が起こっている領域では温度が高くなる。大気の流れが極域で集まる過程には金星全体を包み込むような巨大な波が関わっており、これが極域の一部で温度が継続的に高くなる原因だとモデルは示唆しているという。
金星には現在、日本の探査機「あかつき」が回っており、今年4月頃から「あかつき」の本格的な観測が始まる予定となっている。JAXAによると「『あかつき』に搭載された複数のカメラによる観測から、金星の南北方向の大気の流れの強さや気温分布がわかれば、本研究で用いられた理論モデルを実証することにつながり、そのようなモデルで観測成果を解釈することで金星の大気・気象への理解が深まると期待されます」としている。
本研究内容は、2月1日発行の「Nature Communications」に、『The puzzling Venusian polar atmospheric structure reproduced by a general circulation model』のタイトルで掲載されている。
Image Credit: JAXA
■JAXA | 金星極域の高温の生成・維持メカニズムを理論的に解明
http://www.jaxa.jp/press/2016/02/20160201_venus_j.html